表題作と、「的になった七未」、「ある夜の思い出」を収録した中短篇集。
特に、亜沙と七未の物語には共通したものを感じ、それは、今村さん特有の不穏さではなく、人生を全うしたという、ひとつの充実感であったこと。
というのも、ふたつの物語それぞれには、高々と立ち塞がる人生の壁があって、それを乗り越えるために彼女たちの・・たとえ周りから、さぞ奇特で恐ろしい行動に思われようとも、あくまで彼女たち自身の必死な人生の過程において、そこに見え隠れするのは、涙を手書きしているピエロであったり、喜劇と悲劇を両天秤に抱えたやじろべえであったりする。
それは、人生って、ちょっとしたことで、悲しいことが笑えることに変わったり、逆もまた然りであることを実感することで、生きることの複雑さを思い知り、その辛さや楽しさがごちゃ混ぜになった、泣き笑いのような亜沙や七未の人生観を、読者は目に深く焼きつけることになる。
それに対して、決して、可哀相だとか思ってはいけない。おそらく彼女たちは、これでやっと報われたという、ある意味、それを知らずに人生を終えなければならなかった人たちに比べれば、充分、幸せだっただろうから。
そういったわけで、上記のニ作品に比べれば、「ある夜の思い出」が、今村さんにしては、おとなしい普通の作品に思えてくるから、不思議。
まあ、不穏さはあるから、こちらの方がいつもの今村さんなのかもしれないけど、私にはちょっと物足りなくなってきた。
床をズリズリと這う女性の話なんだけどね(笑)
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2022年11月14日
- 読了日 : 2022年11月14日
- 本棚登録日 : 2022年11月14日
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コメント 9件
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2022/11/14
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2022/11/15
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