亜愛一郎の狼狽 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M あ 1-4)

著者 :
  • 東京創元社 (1994年8月12日発売)
3.65
  • (72)
  • (143)
  • (175)
  • (15)
  • (3)
本棚登録 : 1171
感想 : 138
4

本書は、1978年発表の、『亜愛一郎』三部作の第一弾で、若い頃に読んだときは、もう少しライトで、コミカルな印象だったのが、今読んでみると、真っ向勝負の本格ものに感じられて(泡坂妻夫流のということで、もちろんストレートだけではありません)、読む年代により、印象が大きく変わるのだなと、実感いたしました。

デビュー作の、「DL2号機事件」にしても、ほとんど内容を覚えていなかったため、後半の狂気的な展開に、心底驚いたと思ったら、それに対して、なるほどと肯ける論理的根拠があって、奇術さながらの、あっと言わせるトリッキーさと、泡坂さん自身の博識ぶりが同居した様は、既にデビュー作で健在だったことに、また驚きました。

真っ向勝負といえば、「掘出された童話」の暗号の謎もそうで、私は解答を見ても分からなかっただろうなと思いましたが、そこには知識量の凄さだけではなく、泡坂さんの、古くから伝わる文字や言葉に対する敬意も感じられて、しかも物語において、暗号にした目的が、また、何とも言えないものがあり、人間の愚かさや憐れさを、しっかり書いているところも印象深かったです。

そして、悲劇の被害者が多いのも、また印象深く・・・「掘出された童話」や「ホロボの神」、「掌上の黄金仮面」がそうで、特に後者は、今で言うところの、ブラック企業の存在を暗示しているようにも思われて、より、やるせないものを感じました。

また、本書における、泡坂さんの遊び心も健在で、

『「消えるドクロ」 by T.Awasaka』や、

更に、各話で必ず一度登場する、三角形の顔をした老婦人(プラス、タケル君)の存在も、本編とともに気になってしまい、今後も目が離せません。


あ、そうそう、肝心な探偵役の紹介を忘れてました。

年齢は35歳くらい。背が高く、整った端麗な顔だちは、どう見ても写真に撮られる方だが、彼は撮る側で、報道カメラマンの派手な仕事ではなく、雲やゾウリムシなどを面白がって撮っていて、いつでもきちんとした身なりをしているのは、なぜか質問すると、

「汚い格好で撮影したのでは、自然に対して失礼に当るでしょ」

と答える真摯さをもっているが、やや挙動不審プラス不器用で、運動神経は無さそうでいながら、腕っぷしは強く、白目をむいた後の頭のきれの良さは、紛れもなく、探偵『亜愛一郎(あ あいいちろう)』であり、ちなみに本書だけで、驚いたときに「きゃっ!」と叫ぶ場面が二回あります(可愛い)。

また、強面の高波刑事が、ああさん(私はこう呼ぼうかな)のために、捜査費から宿泊費を出してくれたり、ああさんの、おろおろした感じを気に入っている、一荷聡司であったりと、彼自身の人間としての魅力も見逃せないところであり、櫻田智也さんの、探偵『魞沢泉(えりさわ せん)』との類似性も分かった気がしましたが、現代人の多様な価値観の内面に立ち向かう魞沢クンは、まさに、令和の探偵だなといったところも、再実感いたしました。


ちなみに、akikobbさんの「生者と死者」のレビューにあった、ヨギガンジーシリーズの、「生者と死者」の本編に、本書に登場した方の、名前だけ登場した人物(ややこしい)、私も見付けましたよ!

これ、気付くと、とても嬉しいですね。
「生者と死者」は1994年の作品で、本書は1978年。
彼が16年前の若い頃で・・・あれっ、これってもしかすると、序盤に登場する、玩具屋の口髭を生やした若い店員って、まさか・・・なんて。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2022年10月5日
読了日 : 2022年10月5日
本棚登録日 : 2022年10月5日

みんなの感想をみる

コメント 14件

なおなおさんのコメント
2022/10/05

たださん、こんにちは。
お久しぶりです^^;

最後の"まさかの人"って、私も知るあの彼のことなんでしょうか?
違ったかな…^^;
読みたい本が次から次へとあり、泡坂先生の本が積読状態になっております(-_-;)

たださんのコメント
2022/10/05

なおなおさん、こんばんは(^o^)

そういえば、コメントでは、お久しぶりでしたね♪

とは書きつつも、なおなおさんのレビューは、いつも通り拝見していますし、他の人とのコメントも、こっそり覗いていると、ああ、変わらず、お元気そうだなと思っておりました(^_^)

それから、「まさかの人」の件ですが、なおなおさんの、ご想像通りだと思います。そう、ナ○ルです(笑)

読みたい本が多い悩みは、皆、一緒ですよね。

私なんか、読みたい本に登録して、何年寝かせてんだというのが、結構ありますから(そのくせ
、どんどん増殖中で(^^;))。

なおなおさんのコメント
2022/10/05

たださん、お返事をありがとうございます。
私もたださんが他の方とコメントでやり取りしているのをこっそり見て、ああ、お元気そう!と思っておりました(^^)

「まさかの人」、ナ○ルの方でしたか。私、○っちゃんの方と勘違いしておりました^^;
でも本の中のリンクって面白いですよね。

話変わるのですが、たださんが最近レビューされた絵本(怪談絵本)を今日借りて読み、とても面白かったのです。
たださんのレビューをパクるわけにはいかず(当たり前^^;)、詳しくはたださんのレビューへ…なんて書いてもいいでしょうか^^;!?

111108さんのコメント
2022/10/05

たださん、なおなおさん、こんばんは。

「まさかの人」=ナ◯ル(笑)‼︎
なんだかもう確定ですね!

泡坂妻夫、いろいろ仕掛けてくるので楽しいですね。と言っても三角形の顔の老婦人くらいしか気がつかないですが‥。タケル君って?
たださんはいろんな人見つけ上手ですね。またこれから続くシリーズで見つけ次第教えて欲しいです♪

なおなおさん、私も泡坂妻夫かなり積読してます‥楽しみがいっぱい残ってると思うことにしてます(-.-;)

たださんのコメント
2022/10/05

なおなおさん、返事のお返事をありがとうございます。

あら、○っちゃんの方だったのですね(^^;)

ただ、そちらの方が、違和感は無さそうなんですけどね。「消えるドクロ」を、さも嬉しそうに、実演するところとか、まさにって、感じで。

ちなみに、ナ○ルも正解かどうかは、分かりませんので(笑)
ただ、そうだったらいいなという、私の夢です(^^;)

そういえば、なおなおさんの本棚で見ましたよ。
その時に、もしやこれは、と思っておりました。
面白かったとのことで、ありがとうございます(^_^)

別に書いても構わないは、構わないのですが、私、遠野物語とか、京極さんのこと、ほとんど書いていないんですよね(笑)

ただ、町田尚子さんへの愛だけが強いので、それでも良ければ、どうぞ(^^;)

たださんのコメント
2022/10/05

111108さん、こんばんは♪

コメントありがとうございます(^_^)

タケル君は、「黒い霧」で、老婦人が連れているブルドッグの名前です。ほんの数行ですから、あまり印象に残らなくても仕方ないと思います。

見つけ上手でしたら、akikobbさんの方が凄いと思いますよ。
なんといっても、他のシリーズとの繋がりを見つけ出すのですから。

私も久々に、本棚の「生者と死者」を取り出して、頭からペラペラ流し読みして、見つけたときの、「あった!」の喜びは、満足感でいっぱいでした。

本当に、泡坂さんの仕掛けには、油断できませんよね。
次の「転倒」も、目を光らせておかないと(^^;)

なおなおさんのコメント
2022/10/05

たださん、ありがとうございます。
例の絵本、たださんのレビューから読みたくなり、今日借りに行ったのですよ(^^)
たださんのレビューにも触れさせていただきます。

111108さん、こんばんは。お久しぶりです。
私は「生者と死者」も亜愛一郎シリーズも未読で皆さんのお話についていけませんが、堂々とおしゃべりに参加している状態です…^^;

111108さんのコメント
2022/10/05

たださん

タケル君、ブルドッグの名前でしたか!
たださんとakikobbさんに教えてもらったて、見つけるの楽しみたいです♪「転倒」早く読みたいです〜

なおなおさん

そう言えばお久しぶりでしたね!
未読でも大丈夫です〜キャスティングが上手いなおなおさんが何か読まれたらまた妄想キャスト大会したいです♪

akikobbさんのコメント
2022/10/06

たださん、こんにちは。
なおなおさん、111108さんもこんにちは。

『狼狽』再読されたのですね!
私は今『転倒』真っ最中で、タケルくん出てきましたが、「黒い霧」にも登場していたとは気づいていませんでした。こういうの楽しいですね♪
まさかあの店員さんが“ナ◯ル”だったら…いや、“◯っちゃん”かも…なんて想像も素敵です!他の短編についてと、たださんの物語評を読んだら私もまた読みたくなりました。もう、買っちゃおうかな!
(うちの場合図書館も徒歩圏ではないので金銭的には買った方が安いということもありますけど、手元に置いてたまに戻ってきたくなるような魅力が、泡坂妻夫作品にはありますねえ)

111108さんも名前をあげておられたエリサワ君なる探偵さんも、ぜひ読もうと改めて思いました。

…愛一郎のキャスティングは白熱必至ですね笑。

たださんのコメント
2022/10/06

みなさん、こんばんは。

akikobbさん、コメントありがとうございます(^_^)

おお、さっそく「転倒」でも、タケル君、再登場しましたか。
いやいや、楽しいお気持ちについては、私がakikobbさんに感謝したかったのですよ。
もう「生者と死者」で、あの人物名を見つけたときは、思わず、二度見してしまったほどの、衝撃と嬉しさで、泡坂さん、本当にこんなことしてるんだなって、感動を覚えました。
レビューで教えて下さり、ありがとうございます(^o^)

まあ、ナ○ルや○っちゃんの店員説は、永遠の謎になってしまいましたが(私が勝手に謎にしているだけですが(^^;))、ヨギガンジーと亜愛一郎の世界が繋がっていることは、akikobbさんが教えてくれたので、これからも夢見ていこうと思っております。

タケル君も存在感ありますが、三角形の顔をした老婦人の登場シーンも、全部集めると、一つのミステリーになりそうで、面白そうですよね♪

特に、「掘出された童話」での、間違えて賽銭箱の中に入れた、お金(珍品中の珍品)のエピソードは印象的で、しかも、こんな遠い地で、ああさん(akikobbさんは、あいさんと書かれてたので、私は、ああさんにしました)と出会う偶然って、有り得るか? なんて思ったりしまして。
もしかして、ああさんの追っかけが趣味の隠れファンとか? なんて(^^;) 
まあ、ただの旅行好きなのかもしれませんがね。

私の感想で、また読みたくなって下さったなんて、嬉しさの極みです。ありがとうございます(^_^)

それから、櫻田智也さんの、探偵『魞沢泉』シリーズ、是非読んでみて下さい。

二作出てますが、「サーチライトと誘蛾灯」から順番通りに読むのがお勧めで(私は逆だったので)、きっと、亜愛一郎が好きなら、御満足いただける、素晴らしい探偵ものだと思います。



ついに、亜愛一郎シリーズも、妄想キャスト大会を望む声が、高まってきましたね♪

ここはひとつ、積読状態の、なおなおさんに、なんとか頑張っていただいて(冗談で書いてますので、なおなおさんは御自分のペースで、大丈夫ですからね)、いつかやりたいですね(^_^)

私は既に、あの方を頭に描きながら、読んでおります。

111108さんのコメント
2022/10/06

みなさんこんばんは!

ヨギガンジーと亜愛一郎つながってるの、本当に感動ですね。akikobbさんありがとうございます。
サブキャラにまで興味をわかせる演出、泡坂さん素敵すぎます‼︎

妄想キャスト大会楽しみです。なおなおさんのアイデア溢れるキャスティング楽しみです。たださんの「あの方」誰を描いてるのかも気になります〜私も積読の「転倒」そろそろ手をつけたいです(๑˃̵ᴗ˂̵)

akikobbさんのコメント
2022/10/06

たださん、お返事ありがとうございます。
111108さん、こんばんは。

ヨギガンジーと亜愛一郎の世界が繋がっている発見、泡坂妻夫ファンの間ではもしかしたら常識なのかもしれないが…と思いながらも、私も嬉しくて感動したのでレビューに書きましたが、そんなふうに共感していただけてたいへん嬉しいです♪
にわかファンなので立て続けに読んでいることが幸いしました笑

三角顔の老婦人の生活も気になりますよね。彼女の日記風ストーリーも読んでみたいかも…。

たださんはもう、あいさん像定まってるんですね!(呼び名まで、私のレビュー引っ張ってくださってありがとうございます照)私はまだうすぼんやりしてるんです〜。みなさんのアイディアお聞きしたいです。なおなおさんの閃きにも期待大!いつかそんな日が来ることを楽しみにしています♪

なおなおさんのコメント
2022/10/06

皆さん、こんばんは。

「生者と死者」未読、亜愛一郎シリーズ未読なのですが、堂々とおしゃべりに参加しております。お許しください^^;

皆さんとまた、妄想キャスティングしたくなりました。
そのためには、物語のリンクも考えて、「生者と死者」→亜愛一郎さんと読んだ方が良さそうですね。
お待ちください(-_-;)
それか皆さんでキャスティングしていてくださいな(^^)

話変わるのですが、気になっていた泡坂さんのある本を最近ゲットしたのです。
本屋にも楽○中古にもなく、ブッ○オフ在庫1冊になった時に慌ててポチッとして、手に入れました( ´ー`)フゥー...危なかったです。
先輩の皆さんでも未読の本と思われ、先取りしちゃおうっと、なんて意気込んでいたのですが(生意気〜)、登場人物が多くてちらっと読んだだけ(-_-;)
積読本が増えつつあります。

今、別の作家さんの読書強化シーズンをやっておりますが^^;、落ち着いたらアワツマ強化シーズンもやらないと!と思いました!
皆さんのレビューを楽しみにしています(^^)/~~~

たださんのコメント
2022/10/07

みなさん、こんばんは。

それぞれの熱いコメント、読んでいるだけで楽しくなってきます。ありがとうございます(^_^)

妄想キャスト大会も、なおなおさんの手に入れた本も気になりますが、おそらく、泡坂さんの作品のレビューで、また皆さんとお会いできると思いますし、妄想キャスティングの真打ちをさし置いて、やるのもどうかと・・・ね(^^;)

ツイートする