本書は、1978年発表の、『亜愛一郎』三部作の第一弾で、若い頃に読んだときは、もう少しライトで、コミカルな印象だったのが、今読んでみると、真っ向勝負の本格ものに感じられて(泡坂妻夫流のということで、もちろんストレートだけではありません)、読む年代により、印象が大きく変わるのだなと、実感いたしました。
デビュー作の、「DL2号機事件」にしても、ほとんど内容を覚えていなかったため、後半の狂気的な展開に、心底驚いたと思ったら、それに対して、なるほどと肯ける論理的根拠があって、奇術さながらの、あっと言わせるトリッキーさと、泡坂さん自身の博識ぶりが同居した様は、既にデビュー作で健在だったことに、また驚きました。
真っ向勝負といえば、「掘出された童話」の暗号の謎もそうで、私は解答を見ても分からなかっただろうなと思いましたが、そこには知識量の凄さだけではなく、泡坂さんの、古くから伝わる文字や言葉に対する敬意も感じられて、しかも物語において、暗号にした目的が、また、何とも言えないものがあり、人間の愚かさや憐れさを、しっかり書いているところも印象深かったです。
そして、悲劇の被害者が多いのも、また印象深く・・・「掘出された童話」や「ホロボの神」、「掌上の黄金仮面」がそうで、特に後者は、今で言うところの、ブラック企業の存在を暗示しているようにも思われて、より、やるせないものを感じました。
また、本書における、泡坂さんの遊び心も健在で、
『「消えるドクロ」 by T.Awasaka』や、
更に、各話で必ず一度登場する、三角形の顔をした老婦人(プラス、タケル君)の存在も、本編とともに気になってしまい、今後も目が離せません。
あ、そうそう、肝心な探偵役の紹介を忘れてました。
年齢は35歳くらい。背が高く、整った端麗な顔だちは、どう見ても写真に撮られる方だが、彼は撮る側で、報道カメラマンの派手な仕事ではなく、雲やゾウリムシなどを面白がって撮っていて、いつでもきちんとした身なりをしているのは、なぜか質問すると、
「汚い格好で撮影したのでは、自然に対して失礼に当るでしょ」
と答える真摯さをもっているが、やや挙動不審プラス不器用で、運動神経は無さそうでいながら、腕っぷしは強く、白目をむいた後の頭のきれの良さは、紛れもなく、探偵『亜愛一郎(あ あいいちろう)』であり、ちなみに本書だけで、驚いたときに「きゃっ!」と叫ぶ場面が二回あります(可愛い)。
また、強面の高波刑事が、ああさん(私はこう呼ぼうかな)のために、捜査費から宿泊費を出してくれたり、ああさんの、おろおろした感じを気に入っている、一荷聡司であったりと、彼自身の人間としての魅力も見逃せないところであり、櫻田智也さんの、探偵『魞沢泉(えりさわ せん)』との類似性も分かった気がしましたが、現代人の多様な価値観の内面に立ち向かう魞沢クンは、まさに、令和の探偵だなといったところも、再実感いたしました。
ちなみに、akikobbさんの「生者と死者」のレビューにあった、ヨギガンジーシリーズの、「生者と死者」の本編に、本書に登場した方の、名前だけ登場した人物(ややこしい)、私も見付けましたよ!
これ、気付くと、とても嬉しいですね。
「生者と死者」は1994年の作品で、本書は1978年。
彼が16年前の若い頃で・・・あれっ、これってもしかすると、序盤に登場する、玩具屋の口髭を生やした若い店員って、まさか・・・なんて。
- 感想投稿日 : 2022年10月5日
- 読了日 : 2022年10月5日
- 本棚登録日 : 2022年10月5日
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