日記は、過去の自分が書いた文章や絵から、かつての思い出を辿る事が出来るだけではなくて、物を集めることでも同様に成立し、それらを見た途端、かつての自分が心の中にパーッと広がり、人生における大切な一場面を思い描く事が出来て、しかもそれは、自分だけではない家族全員の忘れられない思い出にもなる、そんなかけがえのない素晴らしいものであることを実感いたしました。
「ひ孫」の女の子が、「ひいじいちゃん」の部屋の中のものから選んできた好きなものは、月に腰かける女性がデザインされた素敵な箱でしたが、肝心なのは箱では無く、その中に入っていた、たくさんのマッチ箱で、ひいじいちゃんは、ひ孫くらいの頃、読み書きが出来なかったから、マッチ箱にその日の思い出を入れたのです。
それらは、オリーブの種、王冠、ボタンフック、新聞の切り抜き、石炭のかけら等、一見、何の変哲もないものに思えますが、当人にとっては、とても大切な思い出が詰まっており、ひとつひとつ紐解いていくごとに、知ることが出来るのは、ひいじいちゃんが今日までどのように生きてきたのかということであり、それはまさに、日記を紐解いているようでした。
そして、ひいじいちゃんの人生は、セピア色に彩られた絵柄に切実な思いが滲んでいるような、ささやかな希望に満ちながらも、当時のイタリアの貧しい社会情勢や、アメリカへ移民したイタリア人に対する偏見もあり、悲しくて辛いこともあったけれど、それでも家族の為に学び働き続けて、少しずつ、やりたいことを見つけていった、そんな半生を落ち着いた語り口で振り返る、ひいじいちゃんの温かい人柄と、好奇心旺盛で、時折ひいじいちゃんに気遣いの言葉をかける、ひ孫の女の子の優しさには、家族愛に満ち溢れた微笑ましさを感じさせられ、それは表紙の絵の、マッチ箱の日記の一部として共にある、二人の幸せそうな写真がよく表していると思います。
- 感想投稿日 : 2023年3月29日
- 読了日 : 2023年3月29日
- 本棚登録日 : 2023年3月29日
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