ももいろのきりん (福音館創作童話シリーズ)

著者 :
  • 福音館書店 (1965年7月1日発売)
4.07
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本棚登録 : 1946
感想 : 167
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「中川李枝子」さんの物語と、その夫の「中川宗弥」さんの絵による、1965年の本書は、のっけから
「あたしったら、ももいろのゆうやけの上にいるんだわ」といった、型に縛られない始まり方が、私には新鮮だった。

それは、「るるこ」のおかあさんからもらった、部屋いっぱいになる程の、大きな桃色の紙によるもので、「このかみでなら、うんとくびのながい大きなきりんがつくれるわ」と、早速るるこは作り始めるが、その制作風景は、巨大なアートパフォーマンスを見ているようで面白く、また、宗弥さんの絵は、既に大人のアンニュイな雰囲気を纏ったような色の無い分、着飾らない自然さが魅力の、るること、如何にも子どもが描きました的な、シンプルで愛らしい桃色のきりん、「キリカ」との対照性が目にも映え、まるでセンスの良い女性雑誌のデザインのようで面白い(白黒と桃色しか存在しない世界)。

そして、ついに完成したキリカには、紙が話したり動いたりできるファンタジー感と、紙の特性を活かした現実感(糊が乾くまでぐにゃぐにゃして動けなかったり、雨に濡れると色が落ちてしまったり)とが、ほどよく混在した、子どもにとって、大変惹き付けられるものがあり、しばらくは二人で楽しんでいたが、あるとき、キリカの首に登って見えた、クレヨンの木のある山が気になって、そこから一気に、本書の世界も一面に様々な色が、鮮やかに咲き誇るようになる。

しかし、ここでの宗弥さんの絵は、ものを忠実に眺めて細かく写生した感じというよりも、どこか抽象的に近い、イメージ優先で大雑把に描いた感じで、それはキリカの絵のように、子どもが描いたような無垢な印象を持つ一方で、レモン色の猿のいる木の芸術性を感じさせる美しさもあって、はたして、これらの雰囲気を、今の子どもたちがどう捉えるのだろうと気になってしまう時代性は、正直なところ、少々感じられた。

ただ、それでも、クレヨンの木のある山に住む、これまた型に縛られない色を持った動物たちは、とても印象に残り、上記のレモン色の猿しかり、他にも、空色のうさぎ、ぶどう色のりす、クリーム色のきつねに、チョコレート色のひつじ、赤いリボンのようなへび等々、どれも個性的であり、彼等が、いつの間にか色の付いたるること一緒に踊り回る姿には、まるで、それぞれのアイデンティティを高らかに主張しているような、そんな自由奔放で平和な世界の一面を見せてくれて、そこに、長年保育士をされていた李枝子さんの人柄と、この絵本を作った意義を感じさせられたのが、とても印象的でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 絵本
感想投稿日 : 2023年6月19日
読了日 : 2023年6月19日
本棚登録日 : 2023年6月19日

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コメント 6件

ロニコさんのコメント
2023/06/20

たださん、こんばんは

とても懐かしい本を紹介して下さり、ありがとうございます。

幼稚園の年長さんの頃だったか、この本をお話の時間に、先生が読み聞かせをして下さっていた記憶があります。
内容はすっかり忘れていましたが、「キリカ」と「るるこ」という名前だけはしっかり覚えています。

あの時代の児童書は、今のものとちょっと違う感じがしますよね。
どこがどう、と言われると漠然としてしまうのですが、古田足日さんの『ロボットカミイ』などもファンタジーなのにとても現実的で、子どもの残酷さや素直な正義感、挑戦する気持ちなどが、ものすごくシンプルに書かれていて、まっすぐ心に届く気がします。
素敵なレビューをありがとうございました(^-^)

たださんのコメント
2023/06/21

ロニコさん、こんばんは。
コメントありがとうございます(^^)

素敵なレビューだなんて、嬉しいです。この本は、ロニコさんにとって、大変思い出深い作品だったのですね。読み聞かせするには、ちょっと話が長過ぎるかなとも思ったのですが、「キリカ」や「るるこ」の名前を今でも覚えてらっしゃるとのこと、きっとロニコさんの中で、ずっと記憶に留めておきたい何かがあったのでしょうね。

あの時代の児童書、私はそんなに多く読んでいるわけではありませんが、何となく推し測れるものがありまして、シンプルな中にも、児童作家の方々が、どれだけ真剣に子どもたちに、伝えたい事を考えているのかが、感じられそうですし、実際、本書に於いても、動物たちの自由な色を纏った姿には、子どもたちそれぞれに、好きな色(個性)があっていいんだよと言われているようでしたし、ももいろのきりんのキリカもそうですよね。

古田足日さんの『ロボットカミイ』、私は知らなかったのですが、調べてみて、とても興味を惹かれました。是非、機会を見つけて読んでみようと思います。ありがとうございます(^_^)

ロニコさんのコメント
2023/06/21

たださん

返信をありがとうございます^_^

『ももいろのきりん』は、確かにちょっと長め
なので、先生が何日かかけて読んで下さったように思います。色々なお話などを元に班で工作をした際に、どこかの班が大きなキリカを作ってました。卒園アルバムにも載ってるんですよ!(70年代です!昔話ですみませんm(_ _)m)
他にもいぬいとみこさんの『ながいながいペンギンの話』を時間をかけて読み聞かせして頂いた記憶があります(すごくハラハラするお話でした)。
機会があったら是非読んでみて下さい!

古田足日さんは、『おしいれのぼうけん』も書いておられますが、これもまた怖いもの見たさみたいに、子どもが何度も読んでほしがるお話です。
保育園で言うことを聞かないと押し入れに入れられてしまうのは、今の時代では虐待行為になってしまいますが-.-;

私は大分サボってしまってますが、たださんのレビューは読ませて頂いております。勝手に選書の参考にもさせて頂いております。
人様のを読んで楽しむだけでなく、私もちゃんと書かなきゃなぁ…と思っております。

たださんのコメント
2023/06/22

ロニコさん

更なる返信をありがとうございます(^^)

昔話だなんて、気になさらないで下さい。私も卒園アルバム70年代ですから(^∇^)
それから、そこに載っているキリカ見てみたいですね。

古田足日さん、お名前だけでは分からなかったのですが、『おしいれのぼうけん』で「ああ!」と気付きました。あの絵本の作者なのですね。未読ですが(^^;)

それから、いぬいとみこさんの、『ながいながいペンギンの話』、調べてみたら1957年の作品なのですね。是非、古田足日さんと併せて読みたいと思います。ご紹介、ありがとうございます(^^)

私の感想、読んで下さっていること、とても嬉しいですし、選書の参考だなんて、大した語彙も知らない私には恐縮ですが、学校司書のロニコさんに、そう仰っていただき、とても光栄です。

私もロニコさんのレビューは、いつも楽しみにしており、その一歩引いた視点に、作品の真の姿を紹介したい思いが感じられるようで、とても印象的です。
お仕事も大変かと思いますので、私はいつも気長に待ってますよ(^_^)

ゆーき本さんのコメント
2023/09/22

はじめまして こんばんは( .ˬ.)"

たださんの本棚を拝見していたら「ロボットカミイ」を見つけて もしかして「ももいろのきりん」もあるのでは?!と遡っていたら 見つけました〜!

実はわたしも幼稚園の先生の読み聞かせで「ももいろのきりん」と「ロボットカミイ」に出会いました。
「ももいろのきりん」はそれからずっと大好きで
小学生になった時に初めて自分から親にねだって買ってもらった本です。こんなに長い本を自分で読み切った!という感動を今でも覚えています。

わたしの幼稚園は 卒園アルバムの表紙を自分で切り絵を使って作るんですが、わたしのアルバムには【ももいろをしたきりんらしきもの】(笑)が貼り付けてあります*ˊᵕˋ*

最近 もう一度読み返したいなぁと思って図書館で探しましたが見つからず( •̥ •̥ ) だったので ここで出会えてなんか嬉しかったです!

あぁ〜!部屋いっぱいの大きな桃色の紙!
ももいろのクレヨンでハゲた部分を塗りなおす!
なんて素敵なんだ!!やってみたい!!

たださんのコメント
2023/09/23

ゆーき本さん、はじめまして。
おはようございます(^_^)
コメントをありがとうございます。

今の年になってから、絵本や児童書の面白さに目覚めた、私にとって、「ロボットカミイ」と、「ももいろのきりん」が、これだけ幼稚園や保育園で取り上げられている事を知るのは、当時の良質な作品として認められていた証にも思えますし、ゆーき本さんが、初めて買ってもらって自分で読み切ったという、素敵な想い出に関わる事が出来て、とても嬉しく思います。

しかも、卒園アルバムの切り絵が、ももいろのきりんなのも、相当の思い入れがあったからではないでしょうか。そうした一つのものに、ずっと愛着を持ち続ける子どもの姿には、何故か涙を誘われるものがあります。

私も幼稚園だったのですが、恥ずかしながら、読んでもらった絵本を覚えておらず・・卒園アルバムの表紙の絵が、滑り台等の遊具で遊ぶ子どもだから、もしかしたら、「ぐるんぱのようちえん」かもしれません。

そうですね。あの導入部は、私にはとても画期的で型破りな始まり方に思えまして、児童書に決まった枠や縛りなんかない、その自由さに惹かれました。今でも、あれだけ部屋いっぱいのももいろのきりんを作ったら、きっと子どもたち大喜びすると思いますし、達成感ありそうですよね(^-^)

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