小さいおうち (文春文庫 な 68-1)

著者 :
  • 文藝春秋 (2012年12月4日発売)
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本棚登録 : 5533
感想 : 690
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最終章『小さいおうち』の頁をめくって数行に目を通す。
「この物語を読み続けてよかった」読書の悦び。
読了。
本を閉じて表紙をじっと見る。じーっと見る。
「ああ」
ため息とも感嘆ともつかない、こみ上げてくる何か。

なんとなく、女優の故・高峰秀子さんのエッセイを思わせる「タキおばあちゃん」の手記から始まる導入。
そして、尋常小学校を卒業して「女中」として東京に出た、昭和五年から始まる「タキちゃん」の物語。

現代に生きる僕らが想像する「女中」よりも、どちらかというと「お手伝いさん」と呼んだ方がイメージにしっくりくる。

赤い三角屋根の文化住宅、桃の缶詰を使ったムースババロア。
鎌倉の大仏に、翡翠色のワンピースと麻の日傘。
資生堂の花椿ビスケットと『みづゑ』の特集記事。
明るく利発なタキちゃんと、元気でお洒落でユーモアもある時子奥様との日々は、銀の器にのったフルーツの盛り合わせのように総天然色できらきらと眩しい。
「戦争に塗りつぶされた暗い時代」という単一のイメージで語られがちな昭和初期の東京における家庭や日常の風景を、女中・タキの目線から描き出す、とは巻末の言葉。

そしてひそやかな愛の記憶、とは帯の文言。
「頭のいい女中」の話。
読み終わった僕の頭のなかでは、いろんなことがぐるぐる回る。

再び表紙に目を落とす。
秘密のノートとタキちゃんも『小さいおうち』の内と外、だったのかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(国内)
感想投稿日 : 2012年12月22日
読了日 : 2012年12月22日
本棚登録日 : 2012年12月22日

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コメント 6件

まろんさんのコメント
2012/12/23

kwosaさん、素敵なコメントをたくさん、ありがとうございます♪

この『小さいおうち』、タイトルも装幀もとても気になっていたのです。
ドキドキしながら遠巻きに見ている感じだったのですが
「銀の器にのったフルーツの盛り合わせのように」というkwosaさんのひと言に
やさしく「とん♪」と背中を押された気分です。
いつも図書館で読んで、とても気に入ったものだけ買うようにしているのですが
kwosaさんの素敵なレビューを見ていたら、もう図書館を飛び越えて
買ってきてしまってもいいかな、と思ってしまいました♪

kwosaさんのコメント
2012/12/24

まろんさん、こちらこそ素敵なコメントをありがとうございます。

「文春文庫12月の新刊」の新聞広告をみて、すぐに書店に走りました。
読みたい気持ちがフレッシュなうちに。
まろんさんが気になっていらっしゃる、このタイトルと装幀。
本を読み終えた時、より愛おしくなるのではないかと秘かに思っています。

HNGSKさんのコメント
2013/01/07

私も、これ、今図書館から借りています。早く読みたいです。

kwosaさんのコメント
2013/01/09

ayakoo80000さん

読み終えたらぜひ感想を教えてください。
レビュー楽しみにしています。

MOTOさんのコメント
2013/05/10

こんにちわ。

私は、この本は購入し、手元においてある本でしたので、
ひじょ~にゆっくりじっくり時間をかけて読みました。
なので、
今、改めてkwosaさんのレビューを読んで、
まだ、初々しいタキさんと奥さまのキラキラ眩しかった日々を、アルバムを眺めるような気持で、懐かしく振り返る事が出来ました。
(書店で『みづゑ』を見かけると、なんとなく手にとってみたりなんかして。^^;)

そして、読後、いろんな事が頭のなかをぐるぐる回る。kwosaさん同様、私もいろんな事を考えさせられました。

ただ、人って本当に愛おしいものなんだなー。
・・・とは、改めてしみじみ感じましたよ♪

kwosaさんのコメント
2013/05/10

MOTOさん!

コメントありがとうございます。

直木賞を受賞した時には、何となく遠くから眺めている感じだったのですが、文春文庫の新聞広告を目にした時はすぐに書店に走りました。
じっくり味わって読みたいという気持ちがありながらも、頁を繰る手が止まらず一気に読み終えてしまいました。
せっかく手元にあるのですから、僕も時間をかけて再読してみようかな。

>ただ、人って本当に愛おしいものなんだなー。
・・・とは、改めてしみじみ感じましたよ♪

しみじみ感じますね。
僕は男性なので特に「あの視点」には、ぐっと心にくるものがありました。

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