最終章『小さいおうち』の頁をめくって数行に目を通す。
「この物語を読み続けてよかった」読書の悦び。
読了。
本を閉じて表紙をじっと見る。じーっと見る。
「ああ」
ため息とも感嘆ともつかない、こみ上げてくる何か。
なんとなく、女優の故・高峰秀子さんのエッセイを思わせる「タキおばあちゃん」の手記から始まる導入。
そして、尋常小学校を卒業して「女中」として東京に出た、昭和五年から始まる「タキちゃん」の物語。
現代に生きる僕らが想像する「女中」よりも、どちらかというと「お手伝いさん」と呼んだ方がイメージにしっくりくる。
赤い三角屋根の文化住宅、桃の缶詰を使ったムースババロア。
鎌倉の大仏に、翡翠色のワンピースと麻の日傘。
資生堂の花椿ビスケットと『みづゑ』の特集記事。
明るく利発なタキちゃんと、元気でお洒落でユーモアもある時子奥様との日々は、銀の器にのったフルーツの盛り合わせのように総天然色できらきらと眩しい。
「戦争に塗りつぶされた暗い時代」という単一のイメージで語られがちな昭和初期の東京における家庭や日常の風景を、女中・タキの目線から描き出す、とは巻末の言葉。
そしてひそやかな愛の記憶、とは帯の文言。
「頭のいい女中」の話。
読み終わった僕の頭のなかでは、いろんなことがぐるぐる回る。
再び表紙に目を落とす。
秘密のノートとタキちゃんも『小さいおうち』の内と外、だったのかもしれない。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説(国内)
- 感想投稿日 : 2012年12月22日
- 読了日 : 2012年12月22日
- 本棚登録日 : 2012年12月22日
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コメント 6件
まろんさんのコメント
2012/12/23
kwosaさんのコメント
2012/12/24
HNGSKさんのコメント
2013/01/07
kwosaさんのコメント
2013/01/09
MOTOさんのコメント
2013/05/10
kwosaさんのコメント
2013/05/10