ジ、エクストリーム、スキヤキ

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  • 集英社 (2013年10月4日発売)
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5

「5万円と仏像どっちかもらえるとしたら、どっちもらう?」
「え、19万の仏像?」
「そう」
「そしたら19万の仏像もらって8万で売るよ」
「どこに?」
「ブックオフか何かに」
「いくらブックオフでも、仏像は買ってくれないだろ」

「お前ん家のスキヤキってどんなの?」
「豚だよ」
「それスキヤキじゃないんじゃない?」
「だからこれはスキヤキをどう定義するかによるだろ?」

『大川の母はスキヤキの語源を「好き焼き」だと思っているらしい。「お好み焼き」みたいなニュアンスでスキヤキを捉えていたことになる。
自由な発想でスキヤキを大胆にアレンジしたのだった。』

『簡単なのが嫌だった。もっと、攻めた結果のスキヤキが良いというか、前のめりのスキヤキを求めているのだ。』

「凄さっていうのは外からは、なかなかわからないんだよ」
「じゃあ駄目じゃん?」
「なにが?」
「わかんないだろ?」
「わかんないけど、俺らは外じゃなくて中だからわかるだろ?」
「スキヤキの?」
「いや、スキヤキの中って言うか、スキヤキって言う組織の?」
「全然わかんない」

『僕は茶をすすった。
何してんだっけこれ?
四人で茶を飲んでいる。「お茶をする」という文化というか、行為というかがあるが、こういうのではなかったはずだ。お茶を飲みながらの談笑を「お茶をする」と言うのではなかったか? これはただ「お茶を飲む」である。』

「あ、凄いスキヤ…あ、まあ、なんか、凄い、高い、肉」
「だ、そういう高い肉とかじゃない、もう、超越したいの肉を、あのスキヤキを」
「じゃあもうそれスキヤキじゃないじゃん」
「あ、もうスキヤキじゃないよ」
「え?」
「…それがスキヤキじゃないんだったら、スキヤキじゃないよ、その、スキヤキを超えたスキヤキのことをスキヤキじゃないって言うんなら、スキヤキじゃない」

「えなに? そんなにスキヤキやりたいの?」
「だから、スキヤキはやりたくないんだよ」
「スキヤキはやりたくないの?」
「スキヤキはやりたくないよ、だから、便宜上スキヤキって言ってるけど、それはもうスキヤキじゃない」

『立ち上がり、キューを取ってチョークをつけ始める。チョークをつける意味はいまいちわからないがカッコいいので、ことあるごとにつけるようにしている。』

『わたしたちは、仲が良かった。多分。
でも久しぶりに会ったから、そのときの感覚は遠い昔のことになっているのだけど、仲が良かったのだから今も仲がいいはずだ、という感じがあって、それは仲良く振舞わないといけないという圧力になっている。
そういうのがなければもう少し気軽に話せるんだけど。』

「俺なんか最近、腰が痛い予感がするんだよね」
「予感?」
「痛くなるなっていう前兆が常にあるみたいな? わかる?」

「やっぱり、これだけ大きい身体だったら長く生きるんじゃないですかね?」
「え、身体の大きさと寿命って関係ある?」
「だってもったいなくないですか?」
「え?」
「ここまで大きくなるのに、凄いコストがかかるでしょ? 時間とか食糧とか、それがすぐに死んじゃったらやっぱもったいない気がするんですよ」
「なるほど」

『大学の友達と気が合った。会社の人たちとは、合わないように感じた。僕だけ違う人間のように感じていた。この人たちとは合わないとか思いながら仕事をしていると、実際には合っていようが合っていまいが、合わない。
当たり前のことで、僕自身そんなことはわかっていた。わかってはいたけど、急に態度を変えることは難しく、結局最後まで馴染めないまま、仕事を辞めた。』

「いや、つい、過去のことばっか考えちゃうと思って」
「でも、過去のことしか考えられないんじゃないてますかね?」
「うん? どういうこと?」
「だって、わたしたちが考えることって、わたしたちの中にあることっていうか、なんかストックだけでしょ? それって過去のことじゃないかなって思うんです、わたしたちが知ってることって、全部過去のことっていうか」

「それでも過去ばっか見てちゃやっぱ駄目なんだと思うな ー 未来はさ、真っ暗ってことでしょ? まだ何もない。それでもそっちを向いてないと駄目なんだと思うな」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 前田司郎
感想投稿日 : 2015年6月3日
読了日 : 2015年6月3日
本棚登録日 : 2015年6月3日

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