この作家が書く小説の主人公が好き。
とても魅力的だと思う。
軽薄なくらい軽いのに、ひたむきな感じ、一途に何かに向かう感じ。主人公にはそういう素質が必要なんだ、と読むたびに思う。
これはミステリーだけど謎解き部分にはそこまで力は入っていない感じ。ミスリードと言えなくもない要素は本当に単なる観察事項として扱われているし、犯人を推察できそうな観察はあえて省かれている。アンフェアなミステリー。
そして探偵は探偵としての役割も、自分の本来の仕事(著名人の伝記を書くという仕事)もまるで二の次で、その仕事が持ち込まれたことで幸運にも復活のチャンスを得た、かつての恋人への想いに囚われている。この仕事をすることが彼女を喜ばせるなら、どんなつまらないことでもやってみせよう、という心意気。
探偵はまた、もっと遠い想いにも囚われている。はるか前に失われた、失われたことでとてつもない重みを得たもの。
人生を経るうちに背中に乗せた重みを背負い、目の前にあるもののために自分を差し出し、自分の動ける範囲の狭さを知りながらも、軽々と、飄々と生きている。それは諦観故でもあるし、だから何でも受け入れられる。だから強い。そこが魅力なんだと思う。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2019年6月6日
- 読了日 : 2019年6月6日
- 本棚登録日 : 2019年6月5日
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