妓楼には鍵の姫が住まう -死人視の男- (f‐Clan文庫)

著者 :
  • 三笠書房 (2011年11月18日発売)
4.04
  • (8)
  • (12)
  • (4)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 64
感想 : 12
3

“あの家の中で、誠二は人間ではいられない。誰も、誠二を人間扱いしない。
『守り神って呼ばれながら、化け物扱いされて生きるのって——どんな気分?』
先程紅羽に投げかけた問いを思い出す。
尋ねるまでもないことだった。それがどんな気分かなんて、誰よりこの自分が知っている。
だが、紅羽と誠二は違う。
(俺は半端だ。どこまでも......半端だ)
それでも守り神として吉原のために働いている紅羽とは、絶対的に異なる。
自分は、守り神にも化け者にもなりたくないのだ。
なのに、己自身、胸の底で自分を人と思えないでいるから——だから何をしても、人を真似ているだけのような気分になる。
誠がないと言われるのは、そのせいだ。
何もかもが、真似事でまがいものだから。
(じゃあ、俺は......どうすれば、いい?)
胸の中に、泣き出したいほどやるせない気持ちがあふれる。でも、涙は出ない。
思いきり、喉が破れるくらい叫びたいのに、声も出ない。
(どうしたら、俺は、ちゃんと生きられる?)
出口も答えも得られぬまま、ただひたすらに想いばかりあふれ返る。
それでも生きたいと願うこの心は、一体どこまで浅ましいのだろう。”

個人的に好み。
鍵姫は何となくヴィクトリカを思い出しつつ。
死人視のキャラがとても好き。
続編欲しいなぁ。

“「こ、こらっ、放せ、下ろせっ、この下僕!頭がおかしくなったのではないか!?」
「だって姫さんすげえんだもん、あははは、姫さん最高!」
何かの箍がはずれたかのように大笑いしながら、誠二はなおも紅羽を振り回した。
心の中がひどく軽くなったような気分だった。腹の底で常に渦巻いていた重苦しいものが、全部どこかへ行ってしまったように感じる。今ならきっと空だって飛べる。
すげえすげえと叫びながら紅羽を振り回す誠二に、十夜がどうしたものかという顔で手を出しかねている。紅羽はもはや息もできないという顔で、されるがままになっていた。
と、あっけなく誠二に限界がきて目眩を起こし、紅羽ごと地面に尻餅をついた。
「......うわ、ものすげえ地面が回る......視界が回る......くらくらする」
「当たり前じゃ!怪我をして貧血な上に、あんなくるくる回る奴があるか!」
紅羽ががばと身を起こし、誠二を怒鳴りつけた。誠二はぐらぐらする頭を手で支え、がっくりとうつむく。動けるようになるまで、ちょっと時間がかかる気がする。
「まったく、そなたときたら!いつか深刻な怪我を負っても全く気づかずに、そのまま死ぬのではないかえ!?この馬鹿者めが!」
「うーん、確かに痛覚鈍いのも困りものかもね......結構便利なんだけどねえ、喧嘩のときは」
「ええい、しばらくそこで休んでおれ」
へたり込んだまま動けずにいる誠二から離れ、紅羽が立ち上がる。
それから、ふと思い出したように、尋ねた。
「——そういえば、そなた。先程の鍵は、どうやって手に入れたのじゃ?」
「え?ああ、あれか。あれは......俺も、驚いた」
まだぐらぐらする頭を押えつつ、誠二はへらへらと笑う。
死人の記憶に触れたのなんて初めてだ。まさか物まで受け取れるとは思わなかった。
「見えるだけじゃなかったんだな......死人視って」”

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文庫本
感想投稿日 : 2011年11月26日
読了日 : 2011年11月26日
本棚登録日 : 2011年11月26日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする