“引き返せ……………ないなぁ。
なんだ、ぼくはもうとっくに引き返せなくなってるらしい。こんな個性の固まりみたいな先輩に惹かれてしまったんだ。普通の生活なんて望むべくもない。……いや、望むくらいならどうにかなるかな。頑張れば、普通っぽい生活、普通かもしれない生活……普通の生活?くらいなら送れるかも。…………泣けてきた。
ともかく、ぼくの答えはとっくに決まっていたらしい。
ぼくは、先輩の目を見つめて言った。
「入会します。これからもよろしくお願いします」
「そうか、ようこそ凰林ミステリー研究会へ」
先輩がにっこり微笑んだ。
この笑顔は初めて見る笑顔、そして……たぶん先輩の心からの笑顔。
とてもきれいでやさしい、先輩の本当の笑顔。
ああ、だめだ。
ぼくは観念した。
さようならぼくの普通な日々、どこにでもあるようなありふれた学校生活。
ぼく、山城一15歳A型牡羊座はたった今…………完璧に恋に落ちてしまったらしいです。”
入れ替わり前の先輩とぼくや、愉快なメンバーとの初対面のときの話とか。
昔のぼくが可愛い。
“気が付けば人に溢れ、あっという間に騒がしくなる部室。
これまでの思い出は美しく、今のこの出来事も美しい思い出になる。そしてこれからの未来も美しいはずだ。
「まあまあ、落ち着こうよチェリーちゃん。みんなで食べるのが一番美しく事態が収拾できる方法だと思うよ」
ボクは嵐をなだめる。
そしてつばさだけにそっとささやいた。
「つばさ、今の君はいつかの君より格段に美しいよ」
つばさは一瞬、きょとんとしたあと、いつもの傲岸不遜な笑顔を浮かべた。
「当たり前だ。私は今恋をしているのだからな」
そう言ったつばさは、間違いなく出会った頃よりも美しかった。
「ははははっ」
笑いが洩れる。
いやいや、今日もいつも通り美しくかけがえのない一日になりそうだね。”
- 感想投稿日 : 2010年8月28日
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- 本棚登録日 : 2010年8月28日
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