歌舞伎 家と血と藝 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社 (2013年8月13日発売)
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本棚登録 : 251
感想 : 22
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「悲劇の名門 團十郎十二代」の後、同じ著者の別の本を読もうかと思っていたが、より包括的な書名のものを見つけたのでこちらを。期待どおり、「悲劇の〜」のノリを歌舞伎界の主だった家系に広げた、興味深い本だった。
ただ、体裁はどうにもいただけない。時代ごとにブロック分けした上、「その範囲内での」それぞれの家の推移を書いているので、「第一章・了。第二章は別の家に関して記す。この家のその後については第八章(XXXページ)へ」というありさまで、昔なつかしい「ゲームブックかよ!!」とつっこみたい気持ちを抑えられなかった。
系図を細切れにして各所に挟むやりかたも相変わらずで、これはもう確信的なものであろう。思えばこの著者は、「世界の十大オーケストラ」でも、この手の独特の構成だった。
ただ、内容に関しては文句なしの力作。多くの役者が顔写真付きで紹介されているので、門外漢にも馴染みやすい。五代目坂東玉三郎と十八代目中村勘三郎について、私は名前程度しか知らなかったが、彼らの存在そのものにほとんど奇蹟とも言うべき大きな意味がある(あった)ことをしみじみと悟った。

ただ——これは「悲劇の〜」でも書き、あまつさえそちらでは天皇家に言及していたのでこれまた確信的だと思うが——男系男子で家を繋ぐことは「かくも難しい」というのは正しくない。難しいのは男系男子の「父子相続に限定すること」で、従兄弟や甥、もっと範囲を広げての養子相続を採用すれば、難しいどころかむしろ容易となる。
役者の世界は血統だけでない「才能」というものが必須なので多少難しくもなろうが、単に「ある血統を男系男子で繋ぐ」だけなら、何も難しいことはない。それを難しくしているのは、「男系男子の中でも実の息子しか不可」といった、あとから恣意的に嵌められた枠にすぎない。
誤解されがちなこの点について、特に記しておく。

2015/5/17読了

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 芸術・芸能・教養
感想投稿日 : 2015年5月17日
読了日 : 2015年5月17日
本棚登録日 : 2015年5月17日

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