この手の「失敗者列伝」とも言うべきジャンルにも、一定の需要と供給がある。わりと好きなほうで、目に付くたび手に取ってきたものは片手に余るくらいはあるだろうが、本書の労作ぶりは群を抜いているように思えた。
まず、題材がめちゃマニアック。訳者の方が13人中5人しか知らなかったと書いておられたが、私など、この中では「超有名人」であろうウィリアム・ヘンリー・アイアランド以外はまったくの初耳だった。
それでいて——ここが本当に凄いのだが——あくまでメジャー・ストリームを逸脱してはいない。メジャー中のメジャーたるシェイクスピアを筆頭に、ウェルチのグレープ・ジュースとか、「誤謬の科学」系なら論争の舞台は「ネイチャー」「ランセット」。トンデモはトンデモでも、箸にも棒にもかからぬようなそれではなく、当代一流の専門家たちが世を挙げて侃々諤々の議論を戦わせたものばかりなのだ。その結果、「各章の主役より、脇役たちのほうがよほど多士済々」といったことが起こっている。この点、きわめて良質の「トンデモ本」である。
また、本書の最大の特徴として、古書マニアである著者の「原典主義」が挙げられる。家庭環境が功を奏し、幼い頃から有象無象(ここが肝心)の「いにしえの本」に埋もれてきた著者ならではの迫真性は、「すばらしい!」のひとことだ。
大部な本で、内容のレベルも高いが、読みやすい。「愉快な古書の虫」とも言うべき、著者の人柄がしのばれた。
2015/2/11〜2/13読了
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
偉人・畸人・伝記
- 感想投稿日 : 2015年2月13日
- 読了日 : 2015年2月13日
- 本棚登録日 : 2015年2月13日
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