Twitterで見て、noteに課金したくち。書籍化なったと知って即買いした。
力作である。「結局何もわからん」と怒っている人が散見されるが、それは著者のせいではなく犯人——あるいは事件、あるいは…言ってしまうなら、「村」のせいである。「何がなんだかわからない」ものをありのまま精確に書いたのだから、「何がなんだかわからない」ものになってしまうのは当然だ。
それに、著者はしっかりこの事件を「解決」している。
この事件の経過が世間に言われている「Uターン→精神病→妄想→架空のいじめ→犯行声明(「つけびして〜」)→犯行」ではなく、「精神病→Uターン→(他人への)いじめ告発・批判(「つけび〜」)→(犯人への)いじめ→妄想→犯行」であることをつきとめたのだから。
中でも特に重要な発見は、犯人の精神病が結果ではなく原因であったことだろう。四十歳を過ぎて精神病を発症し、それがために仕事ができなくなり、経済的に立ちいかなくなって故郷に帰った。そこでいじめに遭い、それに囚われ、ますます病を悪化させてしまった。
そう、他に気晴らしや、あるいはいっそ新天地を求めることができなかったのは、犯人が病ゆえに経済的に困窮していたからだ。そして、彼を狂わせたいじめ——終わらない陰口やうわさ話——の原因もまた、往時を支えた林業や椎茸栽培、竹細工といった産業も廃れ、朽ち果てていく村の困窮が原因だった。
「田舎はろくな娯楽もない」「いじめられている」。実のところ、「謎に満ちた」この事件のすべては、開巻すぐに紹介される犯人のメモ書きに集約されている。あえて言うなら「たったこれだけ」のことが、大勢の生命を奪い、数知れない人を不幸にした。
それにしても、著者ははるばる山口県まで取材に行くたびに、こまごまとしたお世話の要領を夫に「申し送りして」、子供を見て「もらって」いる。そうして書いた原稿が陽の目を見なかったことで、「夫も少し怒っている。取材のたびに大きな負担をかけたのだから、当然だ」…。
ほとんどあきらめかけていた本作が思いがけずTwitterでバズり、各社からオファーが殺到しだした時、「私は子供の卒園・入学準備に追われていた。いまどきの園では卒園にあたり、親が企画運営する大がかりな謝恩会がある。それの役員に当たっていて心身ともに疲労困憊しており、何を考える余裕もなかった」…。
いずれも男性なら、また女性でも日本以外なら、ありえないことだろう。これだけの枷でがんじがらめにしておいて、「男ほど残業できないからオンナは無能www」とは。男の卑怯卑劣姑息ぶりは、こんなところにも浮き彫りにされている。
2019/10/1読了
- 感想投稿日 : 2019年10月2日
- 読了日 : 2019年10月1日
- 本棚登録日 : 2019年10月2日
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