雲上雲下(うんじょううんげ) (文芸書)

著者 :
  • 徳間書店 (2018年2月16日発売)
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本棚登録 : 547
感想 : 76
5

朗読したいと思わせる本! 草どんが子狐に聞かせる昔語り、語呂合わせやリズムが心地良い調べでぐいぐい引き込まれていった。妖精や魔法使いの替わりに山姥や田螺、猿、亀、龍などが登場する日本独特のファンタジーの世界だ。外国のように美しくきらびやかではなく地味だが、ほのぼのとして日向ぼっこしているような温かさがある。目下傾倒している森谷明子さんが描く世界観に近い印象を持った。
幼い頃、見聞きした昔話がたくさん語られたが、私が見知った昔話はすでにダイジェストされたものだったのだろうか。本作で取り上げられた昔話は長編だった。それは作者が更に肉付けを施したものか、それとも本の最後に提示してある語り部の方々が伝えられているものなのかと興味深かった。小さい頃は半ば退屈しながら読んだのに、お話を聞いている子狐みたいに「話の先はどうなるの?」とドキドキしながらページを繰った。
だからだろうか?
三章『物語の果て』は理屈っぽくなり、せっかく楽しんでいた物語の世界から現実に引き戻され残念だった。
たぶん、昔話に耳を貸さない親や子供たちが増えている昨今を憂えてのことだろうが・・・。昔話に登場する者らの姿が消えかかり消滅寸前となる。そこで草どんは草だったのではなく、昔は天上に住んでいてお話を語る福耳彦命だったと話はしめ繰られている。
特にP14の春の風は鈍物で、夏の風は計算深く、数奇者を気取る秋風、冬の風は話にならない~と、1ページに渡る描写は巧い。
以前、朗読会で披露した「つつじのむすめ」も懐かしい。私が語ったのは松谷みよ子さんの絵本で、本作で取り上げたのと少し異なる。
しかし、毎夜訪れ葬られた娘を不憫に思うより「あれじゃあ男も怖かっただなぁ~」と、山姥がふっと洩らし、私も回を重ねるごとに同様に感じたのを思い出しくすっと笑ってしまった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2018年10月1日
読了日 : 2018年10月1日
本棚登録日 : 2018年4月26日

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