武士道 (岩波文庫 青118-1)

制作 : 矢内原忠雄訳 
  • 岩波書店 (1938年10月15日発売)
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感想 : 319

読んだつもりになっていましたが、「武士道と云うは死ぬことと見付けたり」の『葉隠』と勘違いしていたようです。
ルーズベルト米大統領がこの本に大変感銘を受け、日本の要請を受けて日露戦争講和に乗り出したと知ってから、内容を知りたいと思っていました。

国内よりも海外で名が知られている新渡戸稲造氏。
病気の療養中、妻の質問に答えたものをまとめたとのことで、妻は外国人なのだろうと考えます。
(調べてみたらアメリカ人でした)

つまり日本に関する知識がほとんどない外国人たちに、日本の精神を伝えようとしている本。
現在の私たち日本人にとっても非常にいいテクストとなっています。

武士道をChivalry(シヴァリー)と訳しているのが、なんとも洋風。
西洋の騎士道(ホースマンシップ)とは似て非なるものだとの定義付けが続きますが、ノーブレス・オブリージェ(身分に伴う義務)の点では共通すると明解に解説しています。

武士道は仏教と神道、そして禅や仁の教えの影響を受けていると、逐一言及しています。
仏教からは慈悲思想、運命に任すという平静な感覚、神道からは主君への忠誠、禅からは瞑想、仁思想からは道徳的教義。
さまざまな思想が土壌にあり、独自性を帯びて発展していったことに、納得がいきました。

また、神道の神学には「原罪」の教義がないと、キリスト教との根本の違いも指摘しています。

謙信が敵の信玄に塩を送った逸話や、須磨の浦の戦での敦盛と直実のエピソードも織り交ぜて語られます。
菅原道真が失墜した時、一族を根絶やしにしようとするライバルにより、彼の子供も殺されかけたところを、年格好がそっくりの少年が身代わりになり、命を落としたという話は知りませんでした。

日本の愛する桜と欧米人が愛するバラは、華麗さ、香りの強さが対照的で、正反対の花だとしています。
控えめにはかなく散っていく桜に自己を投影する日本人像を、外国の読者はどのようにとらえたのでしょうか。

著者によると、騎士道はアンリ二世が殺された1559年で廃止され、武士道は1870年の廃藩置県で終了したとのこと。
もはやどちらも、過去の美学となってしまいましたが、形を失った今でもなお、その香りは残っているという表現で、文章は締められています。

古めかしく、多少読みにくさはありますが、格調高い美麗文。
著者は英語でしたためたとのことで、原語もさぞかし美しいのだろうと思います。

日本の中で、日本人に囲まれて暮らしていると、当たり前にしか思わない考え方でも、海外の異文化に身を置いて日本を鑑みる著者のような国際人にとっては、その思想や感覚は客観的に独特であり、文章にして広く世に伝えるべきものと思えたのでしょう。
今はもう失われた武士道精神だけに、私たちにとっても過去の武家社会の思想を知るよすがとなる、貴重な資料となっています。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 宗教全般
感想投稿日 : 2012年4月16日
読了日 : 2012年4月16日
本棚登録日 : 2012年4月16日

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