一度も植民地になったことがない日本 (講談社+α新書)

  • 講談社 (2007年7月20日発売)
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書店の新書コーナーに平積みになっていた一冊。
ヨーロッパ在住の著者が海外で感じた日本観が紹介されているため、外部からの目線として興味深く読みました。

長年外国に済み、海外の人々と異文化交流を重ねていないと、わからないようなことが、いろいろと紹介されています。
たとえば、この60年の間に、ドイツは40回以上憲法改正をしているということなど。
つまりは1年半に1回の割合で憲法に手を加えているということになります。
一度も憲法改正をしていない日本人にとっては驚きですが、そもそもドイツと日本では、憲法の成り立ちが違っており、日本の法律感覚なんだそうです。
この点も理解していないと、日本人は唖然とするしかありません。

また、日本はマスターズ・カントリー(ご主人様の国)を持たない、つまり植民地になったことがない国ですが、アジア・アフリカ地域でで植民地にならなかった国はほとんどないとのこと。
以前は日本・タイ・エチオピアと言われていたそうだけれど、エチオピアは第二次大戦前にイタリアに攻め込まれたので、外れるそうです。
考えてみたこともありませんでした。

日本の歴史の中で、信長時代の宣教師来日と、徳川時代終わりの開国時に、植民地になる危機があったという歴史教育も、日本では受けません。
日本の国家的危機といったら、元寇と第二次大戦後しか思い浮かびませんが、それはあくまで占領であって、植民地化されるという意識は日本人になかっただろうと著者は言います。
単一民族、単一言語の単一国家である日本にとって、よその国になってしまうという感覚はなかなか持てないものです。

その昔、日本を訪れた宣教師(バテレン)たちの真の目的は、キリスト教布教とともに母国の領土拡大だったということも知りました。
宗教を理由に、侵略の機会をうかがっていたなんて、おそろしい話です。
つまり、日本の為政者たちがキリスト教の広がりを恐れたのは正しい判断だったそうです。

布教を認めたら、日本はフィリピンやマカオ同様に、スペインかポルトガルの植民地になっていた可能性もあったということで、キリシタン弾圧の残酷さ、苛烈さには納得がいかない私でしたが、そこが見落とされがちながら、歴史の危ない分岐点だったことに気付きました。

当時の日本の清潔には、訪れた宣教師たちがみな驚いたというのも意外でした。
話を聞いてもらうために、日本人と会う前には風呂に入り、身体を清潔にしろと言われていたそうです。
当時のヨーロッパは街中がゴミや汚物にあふれて不衛生極まりなかったとのこと。
貴婦人の結いあげた髪の毛はシラミやダニだらけ。
だからドブネズミが大量発生し、ペストが流行ったそうで、聞くだけでぞっとします。

つまり、当時の日本は、ヨーロッパ以上の文化を誇っていたとのこと。
また、信長が、バテレンが献上した黒人奴隷を、ヤスケと名付けて召し抱えたなど、人種偏見も奴隷制度もなかった日本は、恵まれた平和な国だったんですね。

南蛮人とは、字だけ見ると「南から来た野蛮な人」という意味で、今から思えば、むしろ火薬や鉄砲を紹介してくれた文明人たちなのに、と思いますが、実際には、毎日風呂に入らなかったり、土足で部屋に入ったり、人や動物を殺す刃物であるナイフを食事に使ったりと、当時の日本人にとっては野蛮きわまりない人種だっただろうと、指摘されていました。

十字軍を迎えたエルサレムの人々も、ヨーロッパ人を"野蛮な国から押し寄せてきた人たち"と見做したとのことです。
やはり当時は、イスラムの方がヨーロッパよりも文化が進んでいたからだそうです。
ヨーロッパは昔も今も文化的だというのは、日本人の過剰な思いこみに過ぎないのかもしれません。

さらに、220年間におよぶ鎖国の影響は、現代日本人が「自分はアジア人だ」と認識できない理由になっているのではないかと、著者は述べています。
たしかに、日本人という自覚はあっても、アジア人という感覚は、希薄な私たち。
不思議なものです。
それだけ大陸間でのいがみ合いにさらされてこなかったというのが原因なのかもしれません。

また、フランス憲法は「フランスの国語は、フランス語である」と明記されているけれど、日本国憲法にはそういった条項が無い点も挙げられていました。
それは、日本人が言葉を奪われた歴史が無いからで、ドーデの『最後の授業』を読むと、母国語を禁止される国民のつらさがよくわかります。
運よくその悲劇に見舞われることのなかった日本人ですが、どうも日本語を軽視しているような気がすると、著者は案じています。

外から日本を見つめる視線は、国内に住む私たちには思いもよらないものであるということが、いろいろとわかりました。
植民地化されなかったことのメリット・デメリットがそれぞれあるとは思いますが、別の国に占領されていたら、ユニークな江戸庶民文化はまず発展しえなかったでしょう。
日本の歴史を外国からの視点で見つめ直すのも、新鮮で新たな発見があるものだと気付かされました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 地域研究・旅
感想投稿日 : 2011年7月13日
読了日 : 2011年7月13日
本棚登録日 : 2011年7月13日

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