D・キッサン短編集 矢継ぎ早のリリー (IDコミックス) (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

著者 :
  • 一迅社 (2010年5月25日発売)
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本棚登録 : 396
感想 : 33

印象的なタイトル、そして表紙に心引かれ、中身が気になりました。
D・キッサンという作者名から、翻訳ものかとおもいましたが、原作者というわけではなく漫画家のようなので、描いているのは日本人だろうと読みながら考えます。
中表紙に、クラシカルな万年筆やインキの瓶が描かれており、とても素敵でした。

男装しているのがリリー。エーヴという女性と組んで仕事をしています。
仕事というのは、天上に召された魂の遺言をかなえるということ。
つまり彼女たちは天使なのでしょうか。

リリーは顔の片側を髪の毛で隠しています。
クールな男装をしているからかと思いましたが、天上との契約の時に髪をかきあげたら、そこには、黒執事のシエルのような邪眼(天の使いだから邪悪とはいわないかも)がありました。
エーヴの服はクラシカルで素敵。

家にはルシャ少年がいて、家事をしています。
かわいらしいですが、中身はおっさんだとのこと。
マランゴ風煮込みがおいしそう。マレンゴ風のことでしょうか。

彼女たちが出会うのは、絶望した少女にとりついたヴァンパイア、ヴィクトル。
ヴァンパイアは鏡に映らないため、散髪をした後には窓に映った姿で確認しており、日常的にはちょっと不便だなあと気づきます。
ヴァンパイアは、むやみやたらに若い女性に襲い掛かるわけではなく、絶望している者と契約を交わして、血を吸うんですね。
血が無くなれば、またほかの血が必要になりますが、「これまで血に困ったことはない」という彼。
つまりそれだけ、絶望した女性が大勢いるということでしょう。

嘆き悲しむ恋人のそばに永遠にいられる存在になることで、愛する人を守ろうと思った彼。
そんな美しい魂を持ってヴァンパイアとなったことが、意外でした。
でも、ヴァンパイアになっても、誰一人幸せにできていないことが、心優しいヴィクトルを追い詰めていたのです。

人々の優しさが織りなした、美しい結末。
短編集ということで、この物語は一話で終わってしまいましたが、ぐっと心惹かれました。

次は、突然平安時代の蹴鞠の話。いきなりの時空展開にびっくりします。
主人公が白拍子というのが、また斬新。
スポーツを通じて身分を越えた人の交流の話で、ほのぼのしていました。

明治・大正時代の、椿の着物を着ている、悪評高い未亡人の話もとても鮮烈。
わざわざ縁起を悪くして、先立たれた夫の元へと向かいたいという切ない思いが最後に見えた時には、ぐっときました。

絵は端正できれいだし、確固とした物語世界の構築も素敵です。
初めての作家でしたが、今後もチェックしていきたいです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: comic
感想投稿日 : 2011年8月24日
読了日 : 2011年8月24日
本棚登録日 : 2011年8月24日

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