神々の山嶺 下 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (2000年8月18日発売)
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感想 : 264
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【神々の山嶺】

夢枕獏の最高傑作!!
どうだ!!と叩きつけられるような本でした。
昨年のアニメ映画じゃ全然伝わってなかった…。漫画もあるけど、これは絶対に小説で読むべき。この熱量はそんな簡単にトレースできない。

山岳小説ど真ん中!ストレート一筋。超どセンターを一切躊躇なくこれでも足りないか!というほどに叩き込む。磨きこまれてるが、ゴツいダイヤモンドのような物語。

もうこれ以上熱くて面白くて夢中になれる山岳小説はないんじゃないか。今後出てこないんじゃないか。と、思ってしまうくらい圧倒的な作品。こんな本があったのか…夢枕獏、恐るべし。

あとがきの「書き終わって体内に残っているものは、もう、ない。全部、書いた。全部、吐き出した。力及ばずといったところも、ない。全てに力が及んでいる」という文に嘘偽りない名作である。

史上最大の山に挑む羽生。
それに食らいつく深町。

下巻、エベレスト南西壁トライの描写は、とにかく凄まじかった。言葉から呼吸を、魂の息吹を感じた。頭がおかしくなるんじゃないか、というような表現が何度もあり(実際頭がおかしくなりつつあるシーンなのだが)高所の極限状態が見開きの紙の世界に広がっていた。

山とはなんなのか。
なぜ人は山に登るのか。

マロリーは「そこに山があるから」と答えたが、
羽生は「ここに俺がいるからだ」と答える。

山に登る理由なんてない。
別に頂上に欲しいものがあるわけじゃない。

’’無理にいうなら、山に登るというのは、自分の内部に眠っている鉱脈を探しに行く行為なのかもしれない。あれは自分の内部への旅なのだ。’’(引用)

この言葉は、多くの登山者に響くのではないでしょうか。山やってれば何度も聞かれる「なぜ山に登るのか?」という質問。毎度用意していた理由を答えてしまう、この問い。こんな難しいことを聞くものじゃないよな。と改めて思う。

''岩壁で死と向き合わせになった瞬間にしか出会えない、自分の内部に存在する感情。世界との一体感。''(引用)

あの背中に張り付くような、緊張と集中と魂の鼓動のような押さえようのない感情。それこそがクライミングの醍醐味であり、逃れられない魂が欲するもの。だからやめられない中毒性があるんだ。

そんなことを書いたけど、まだまだ私にはその一部分の楽しい部分しかわかりません。が、深町という主人公の目を通して、その一部を追体験できました。

悪天ビバークの後、風が止んでテントから顔を出した時の、

''無数の無名峰。
その中で1人だけ生きている
1人だけ、自分だけが呼吸をしている
あー、かなわない。
この巨大な空間。
圧倒的な距離感。
人間が、この自分が、この中でどのようにあがいてもかないっこない。深町はそう思った。
絶望感ではない。
もっと根源的な、肉体の深い部分での認識であるような気がした。人の力がこの中で、いかほどのことができようか。
人が何をしようが、何をやろうが、これは何ほどもゆるぎはしないだろう。
深町は小さく身震いした。
冷気とともに自分の内部に宇宙が染み込んでくるようであった。''(引用)

このシーンがすごく好きです。

山って広大で、登るたびに自分の小ささを思い知らされるんですが、それって別に絶望じゃないんですよね。
全は一、一は全。自分が世界の一部になったような感覚。元々世界の一部なんだけど、普段はそんなこと考えてないし。

その感動と同時に、それはそれ、として、結局大事なのは自分が何をしたいか、何をするのか、自分が今なにの途上であるのか。ということにも気づける。それが大事だし、それを大切にしたいから、私はこの先も山に登り続けるのかなって思います。

これ、マジですごい本です。
エベレスト、見に行きたい。
ベースキャンプまで行ってみたい。

著者は何度もカトマンズやベースキャンプまで足を運んで、20年以上かけてこの作品を仕上げていて、知れば知るほど抜かりなく、魂を込めて書き上げた作品なのだと知らされます。これが、ただの文字の集合体って思うと、文字という文明はすごい。と、、もうわけわかんないとこから感動してきました。

これが新品で文庫上下巻合わせて2000円以下って、コスパ良すぎじゃないか…しばらく何読んでも見ても損した気分になりそう…。いや、待てよ…そう考えると、本当はコスパ、悪いのか…??

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2023年7月13日
読了日 : 2023年7月11日
本棚登録日 : 2023年7月11日

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