一葉恋愛日記 (角川文庫クラシックス ひ 1-3)

  • KADOKAWA (1956年11月1日発売)
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樋口一葉、22歳から晩年(25歳没)までの日記。
本書は抜粋なので全体像を知るには足らないが、周りの人間への冷静とも冷たいとも言える観察や、一葉の人物像が興味深い。
自分に好意を寄せる若い文学仲間(男性)への視点が印象的。一葉を恋しているのではないかと仲間にからかわれた馬場孤蝶の「苦るしげに笑ふ」という反応を描いた上で「うれしけれどもわびし」「あはれ此おもひ、今いくかつづくべき。夏さり秋の来るをも待たじと思へば、ゆく水の乗せてさる落花にも似たり」(p80)と評する。自分も相応に好意を持つ相手に対してこれほどさめた見方をする姿勢は、小説「ゆく雲」にも通じ、また本書後半、文壇でもてはやされるようになってからの世間への冷静な視線にも重なる。
また、毒舌で鳴らした斎藤緑雨との交際。緑雨「御もとなどに参りて、馬鹿野郎呼はりするにてはなかりしを、おさえ難う成てつひ本性の顕はれぬ、驚きやし給ふ」に対し、「承るは今はじめてなれど、君が馬鹿野郎の御うわさ、はやくより伝はりて、世上に君が名しるほどの人承らぬはなかるべし、御遠慮なくの給へかし、これを初音に(p153)」など、ウィットに富んだ受け答えが実に粋で、熱を上げる人もいたことだろうと思われる。
一方で、元水商売の女性の力になろうとしたり(p67)、協力を依頼してきた未知の人物(樋口勘次郎)に対して「ところどころの書店より、雑誌の事などいひ来たるとは事かはり、か斗教育に熱心なる人の、詞をひくうしていはれたることうけがはざらんも本意なかるべくや(p162)」と承諾するなど、義侠心のあるところも見える。
その割に赤の他人である久佐賀のもとへ交際を求めに行って(p37)後に愛人になるよう迫られて激怒したり、さきの樋口勘次郎からも後に恋文を受け取って困惑するなど、男女の仲の距離感についてどう考えていたのか、理解できないふしもある。明治という時代柄もあるのだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年10月14日
読了日 : 2019年10月10日
本棚登録日 : 2019年10月14日

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