ナチスの「手口」と緊急事態条項 (集英社新書)

  • 集英社 (2017年8月19日発売)
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自民党改憲案に盛り込まれた緊急事態条項について、かつてのナチスが独裁に至る過程を振り返りつつ考察する本。
ワイマール憲法はもともと大統領と議会が牽制しあう仕組みだが、非常事態への対応のため大統領が緊急令を出すことができた。だが当時の議会では対立する意見が拮抗して決めることが難しく、打開のため政府が大統領緊急令に依存する傾向があった。
カール・シュミットは「委任独裁」「主権独裁」という概念を提唱した。前者は憲法の規定として一時的に独裁を許すもの、後者は憲法制定権力が自ら表舞台に姿を現すもの。ナチスはワイマール憲法の委任独裁の仕組みを使い、1933年の授権法により憲法にも拘束されない強い権限を手に入れた。ヒトラーの首相就任までは法に則った手続きだったが、就任直前でもナチ党の支持率は33%程度で、決して圧倒的とは言えない。
ナチス支持の背景。党議拘束が強くなると、公開の場での議論により主張を変えることができなくなる。したがって立法の場での議論が形骸化する。議会性民主主義の限界。
緊急事態条項が暴走した反省から、戦後のボン基本法での暴走を防ぐべく歯止めが設けられた。憲法自体は何度か改正されているが、憲法の原理部分は変えられないようにできている。なお緊急事態条項が発令されたことはまだ(この本刊行時の2017年当時)ない。
日本の改憲案の緊急事態条項について懸念される点は、緊急事態の定義が比較的緩いことや、「統治行為論」=高度な政治判断が必要なことがらについて裁判所は審査しない、という考え方の存在。これがあると緊急事態条項の結果について司法の歯止めが利かなくなる。新憲法に緊急事態条項を盛り込むならば、統治行為論を無効化する必要がある。ドイツ、アメリカ、フランスの法とも比較。

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感想投稿日 : 2021年2月14日
読了日 : 2021年2月13日
本棚登録日 : 2021年2月14日

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