狂気と犯罪 (講談社+α新書)

著者 :
  • 講談社 (2005年1月21日発売)
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本棚登録 : 144
感想 : 23
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“日本という国は、絶対数においても、また人口比でも、世界最多の入院患者をもつ国である”
 この状況がどうして生まれたのか。著者は100年前にさかのぼり、歴史を通じて、日本人が「狂気」をどのように取り扱ってきたか、またどのように「狂気」を「犯罪」にリンクさせてきたかを検証していく。

 なぜ「歴史」なのか? 精神障害者の人権が大事か、危険人物を野放しにしていていいのか、「狂気と犯罪」の関係は治安と人権の間で綱引きが行われるばかりで一筋縄ではいかない。本書は「人権論」ではなく「歴史」からのアプローチをとることで、この問題に別な方向から鋭い光を当てることに見事に成功しているのだ。

 本来、「犯罪」と「狂気」は別のものである。両者の関連は“犯罪を行った人間”を超えて一般化するべきものではないはずだ。「たまたまある精神障害者が犯罪を犯した」のであって、「精神に障害がある者が犯罪を犯す」わけではない。
 この両者を等号で結んだのは、いったい誰だろう? 本書は、他ならぬ精神科医こそが、「犯罪」の“原因”に「狂気」を結びつけたのだと告発する。この歴史的な「詐術」がいかにして生まれ、保存され、拡大されていったのかを、歴史を振り返ることで初めて明らかにしている。

 平易な文章でありながら、明快な論理が展開されていることに感嘆する。歴史を現在に結びつける優れた研究であり、歴史からのアプローチを生かした力強い著作である。 「狂気と犯罪」について語る人を見かけたなら、「あれを読んだか」と言える本である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 人文
感想投稿日 : 2014年3月30日
読了日 : 2006年3月30日
本棚登録日 : 2013年5月19日

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