人間原理とはなにか。「宇宙がなぜこのような宇宙であるのかを理解するためには、われわれ人間が現に存在しているという事実を考慮に入れなければならない」という考え方のこと。作者は古代メソポタミアまでさかのぼり、人間原理とはなにか、なぜそんな考え方が生まれたのか、そしてその教訓は何であるのかをあきらかにしていく。
なぜ歴史をたどることが必要なのか? 宇宙論の歴史が、神が世界をどうつくったのか、そのなかで地球がどのような地位にあるのかという問いへの答えとして進化してきたからだ。たとえば本書では地動説を打ち出したコペルニクスが「人間を宇宙の中心から追い出した」犯人ではなく、「人間は特別な存在」だと思っていたことが明かされる。キリスト教的世界観では、天に近いほうがよい場所であり、中心=下の方は地獄であって、コペルニクスは地球をよりよい場所に位置づけたのだ、なんてことは本書を読んで初めて知ったことだ。
第2章から、天の全体像を人間はどう考えてきたのか、宇宙論がなぜ出てきたのかと話がすすんでいく。ニュートンの宇宙では、重力の作用により、宇宙がそのうちひとかたまりになってしまうこと。アインシュタインの宇宙で「宇宙が空間的に閉じている」なら「地の果て」が存在しなくなることになり、ひとつの回答を得たこと。ところがそうした静的な宇宙観を破るビッグバン・モデルが徐々に力を得ていったこと。そうした背景のもと、「人間原理」がなにを提起したのかが描かれる。
「宇宙がなぜこのような宇宙であるのか」という問いは、「各種の物理定数がなぜこのような値を取るのか」と言い換えることができる。しかし、「人間原理」はその問いに意味があるのかどうかを問題にする爆弾のようなものなのだ。
サイモン・シンの一連の著作などの翻訳で、すばらしい仕事をされている著者。自分で書いている本書も、訳文以上に読みやすく、一度で理解できて、さらに読者をぐいぐいと先に引っ張っていく力強さがある文章で書かれている。新書1冊で、これだけまとまりのある、内容のある宇宙論が読めるのは幸せなことだ。
- 感想投稿日 : 2014年4月18日
- 読了日 : 2014年4月18日
- 本棚登録日 : 2014年4月18日
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