精神病・精神障害は「異常」な状態ではない。むしろこころの「本質」から発生するものだ……という観点に立って、統合失調症・自閉症・不登校といったこころの「ふしぎ」に迫っていく。
近年、フロイトの流れをくむ「心」の側からのアプローチをとる精神医学は肩身が狭そうだ。より実証を求める「脳」の側からの精神医学ばかりがクローズアップされている印象を受ける。
しかし、「ふつうの子」がこんなに「とんでもないこと」をしでかして! というとき、やれゲーム脳が原因だの、環境ホルモンの影響がどうだの言い出すのは、一面的すぎるのではないか。「正常」「異常」という分け方よりも、むしろ人間はそのように不合理なものであって、しかも成長過程にあるのならばなおさらだ、というとらえ方でないと見えないものがあるのではないか。そう説明されると、著者のアプローチは、なるほど魅力的なものに思えてくる。
とくに「自閉症」をどう理解するかという問題で、このアプローチは生きてくる。人間の精神発達の構造を 1)「認識」の発達 2)「関係」の発達 の2軸に分け、2)が「遅れる」ことが「自閉症」の本質である、と説明していくのだが、これは「自閉症候群」(アスペルガー症候群、高機能自閉症など)を統合して理解するために非常に納得のいくモデルだと感じた。足の速い子もいれば、遅い子もいる。同様に、「関係」の発達にも、早い子・遅い子がいる。自閉症は「病気」ではない、とはよく言われるが、この本で初めて「腑に落ちる」説明をしてもらったと思う。
この本は、他人の学説をずらーっと並べて紹介するだけの「入門書」ではない。実際に臨床に携わってきた医師が、どのように「こころの本質」を理解しようとしてきたかが見える本になっている。
たしかに、ただ「病」の原因を探すというだけでは見えてこないものがありそうだ。社会との関係・こころの発達のしくみなどを併せて考えていくことで、初めて得られる理解がある。部分からではない、こころの「全体像」から本質に迫る、非常に興味深い試みなのである。
- 感想投稿日 : 2014年3月30日
- 読了日 : 2006年3月30日
- 本棚登録日 : 2013年5月19日
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