からくり民主主義

著者 :
  • 草思社 (2002年6月1日発売)
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本棚登録 : 193
感想 : 39
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 雑誌などで見かける「大人向け」の記事が、どのくらい「大人」を対象にしているのか、考えたことはあるだろうか? 私はどっかで「12歳にわかるように書け」というという心得を目にしたことがある。これは文章表現としての話にとどまらない。「わかりやすい文章」というのは、わかりやすい論理展開と、わかりやすい結論の提示が必要なのだ。それこそ12歳でも理解できるくらいに。

 この本の著者は、その「わかりやすい結論」に、どうやら飽きが来た人らしい。もとテレビのADということが序で明らかにされるが、テレビの「わかりやすさ」指向は、雑誌の比じゃない。ストレスもたまろうというもんである。
 諫早湾、沖縄、上九一色村……流行から2歩も3歩も出遅れて、話題のニュースの現場を訪れる著者。ところが目の前には、まことにわかりにくい構図がでーんとのさばっている。明確な悪者はいないし、善意の正義の味方もいない。欲と勘違いと思考停止がのさばっているばかり。その「わかりにくさ」を、著者はなるべく手触りを残しながら、ユーモアで包んでそっと差し出すように書いていて、それが本書の最大の特徴になっている。
 たぶんテレビ・新聞・雑誌の記者にも同じように「わかりにくい現実」は現れたはずだ。しかし、報道の宿命として、彼らは目の前の現実を、12歳にもわかる構図にゆがめてしまう。昨日も今日も、そして明日も。

 著者の感じた結論のでない違和感を、そのまま味わうのが本書の醍醐味。なげっぱなしジャーマンを素直に楽しめたのは、著者の見事な文章のおかげ。結論がすっきりしない話を読ませるほうが、単純明快な話よりよほど芸が必要である。
 やっぱ、12歳じゃ大人とは言えないよな。このわかりにくい世界を、わかりにくいまま芸にした、著者にあっぱれである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2014年3月30日
読了日 : 2005年3月30日
本棚登録日 : 2013年5月19日

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