ドリトル先生航海記 (新潮モダン・クラシックス)

  • 新潮社 (2014年3月28日発売)
3.81
  • (10)
  • (10)
  • (8)
  • (1)
  • (2)
本棚登録 : 138
感想 : 17
5

「新潮文庫の100冊」の小冊子を見て福岡伸一による新訳が出ていたことを知った。単行本は2014年に発行されていたとのこと。大好きな作品なのにうかつだった。
井伏訳の名調子を超えるのは難しいのでは?という危惧もいくらか抱きつつ読み始めたのだが、すぐにそんなことは忘れて懐かしい登場人物(動物)たちとの再会に時間を忘れた。
福岡訳は平易でこなれた文章になっていて読みやすく、原作への愛情と尊敬が文章のはしばしまで行き渡っているのが嬉しい。
あとがきにもあるが、いちばんの特徴はドリトル先生の口調の若々しさだろう。たしかに「航海記」の先生は温厚な紳士でありながらおそろしくパワフルな武闘派でもある(もしかしたら、パブリックスクールか大学時代になにかスポーツをやっていたか、あるいは幼少の頃から野山を駆けめぐる中で培った体力のおかげかもしれない)。
今の基準でみるとたしかに問題と思われる部分はある。日本でもこの先英米のように多くの人種や民族の人々がいたるところで共存するようになれば、こういう作品は児童書としてはあまり表に出せなくなっていくのかもしれない。しかし、訳者も言うように作品の根底に流れているのはドリトル先生が体現している生きとし生けるものすべてへの愛と公平さである。シリーズの最後まで、ドリトル先生はその愛と公平さをいかに実現するかを考え、取り組みつづけた人だったと思う。その点はもっと評価されてもいいのではないだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 9類海外文学
感想投稿日 : 2019年9月16日
読了日 : 2019年7月28日
本棚登録日 : 2019年7月27日

みんなの感想をみる

ツイートする