火山のふもとで

著者 :
  • 新潮社 (2012年9月28日発売)
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本棚登録 : 66
感想 : 7
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浅間山の麓に建つ山荘から物語は始まる。建物を巡るのは森や動物だけではない。人々の生き様が「先生」を中心に、幾重にも取り囲む。最初のうちこそ地味な展開だが、読み進めるに従ってその地味さがじわじわと効いてくる。本作品は建築用語にあふれた世界だが、奇妙なことに豊かなイメージを喚起する。ちなみに登場する建物や人物はすべて虚構だが、いずれも実際の建築物へのオマージュとして登場する。それらのひとつひとつが、読者への反応を見透かすように、深い味わいへと導いていく。また人物キャラクターが「立っている」のも物語の奥行を深くする。ストーリーには触れないが、登場人物ひとりひとりへの予感のようなものが伝わってくる。この作品にカタルシスがあるかと言えば「ない」と答えるしかないが、ただひたすらこの世界を縦断して流れる「時」があるのだということを改めて知らされる。本を閉じる際、しばしの恍惚感さえ感じさせる佳作だと言える。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学
感想投稿日 : 2022年7月17日
読了日 : 2022年7月17日
本棚登録日 : 2022年6月17日

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