著者が元戦場カメラマンだからだろうか、とても過酷の状況なのに非常に達観しているというか、他人事のように現実感がないというか、少しさめた目線で自身の置かれた状況を描いている。おそらく普通のアルコール依存症患者はこういう風にはいかないだろう。
他の多くの闘病の本で描かれるのはいかにして乗り越えたかとか、どん底の状態からいかに光を見出すかとか、詳細な治療方法と医療に対する批判とか、同じ病気で苦しむ人の救いになるような内容である。しかし、この本はあくまでも自伝である。アルコール依存の恐ろしさは伝わってくるが、これを読めば治るとかアル中の苦しみが和らぐといった類の本ではない。
安易に自分の経験を一般化して同情を引きながら納得させてしまうような本が多い中で、冷静に自分を見つめている大変珍しい内容だと思う。あれだけ世界を飛び回っていた人が最後に選んだ戦場がアルコール依存症患者専門の閉鎖病棟だとは。鴨志田ファンとしては悲しくなる。
しかし、鴨志田穣氏の最後の著書なだけに思いいれもたっぷりある。自身の過去への後悔も妻と子供への愛情も痛いほど伝わってくる。アルコールに逃げるのはやめようと思わせるには十分なほどに。実際に鴨志田氏はアルコール依存症を断つためにタイで出家までしている。それでもやめられないのは本人の気持ちの弱さだけでは説明ができない。恐ろしい病気なのだと思う。
もうお亡くなりになってから二年がたつんですね
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2011年3月20日
- 読了日 : 2011年3月20日
- 本棚登録日 : 2011年3月20日
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