この物語の中心は誰なんだろう。
ピエロでもリゼでも芳村さんでもない。高槻でもない。
そんなものはもともと存在していなかったけど、この巻で主人公は死んだ。亜門鋼太郎も金木研も芳村氏も。
いや、ココに書かれた主人公は圧倒的に金木研だが、でも彼はこの物語のためでも自分の為でも他人のためでもなく死んだ。ピエロの言うようにあっけない。流行らない悲劇にすらならない。
彼は自分の矛盾にもリゼの悲しさにも気づいたわけだが、でもそれでももう物考えぬ武器にされてしまった。
彼の気付きは、これからは、憎しみの連鎖に飲まれてそれを強化する一端に沈み消えてしまうのではないのだろうか。
(ヒデは生かそうとし、有馬は自分を傷つけた彼を認めたはずだが、唯武器になってしまっただけなのか気になるところではある)
とりあえず彼らがいなくなってしまうことが私はかなり寂しい。常識人から外れた元常識人の金木研が本当にそれらの共存や和解があると望んでいたのかもしれないし、ただの人たる亜門鋼太郎があたらしい道を力で切り開く傑物になるのではないかと望んでいたのかもしれない。あるいは芳村氏の子どもとの和解と平穏な暮らしを。
この物語にはきっかけがない。ただの現象としてそれらグールはあり、当然のように食べ、戦い、守り、死ぬ。
しかしその歴史はなく、今の自分と今の関係性しかない。
目標が不安定で集まっても烏合の衆になってしまう。あやふやな信頼関係と打算でしか結び付けない孤立した自己。
というかこの世界観があって設定があった時に、ふつう主人公金木研はこのような性格と過去を背負う事があるのだろうか。彼のキャラクター像はかなり不安定で難しかった気がする。優しさや戸惑い、その葛藤を書くには確かにぴったりではあるんだけど、最近読んでいた漫画よりも安定感がなくてストーリーもかなり綱渡りで動いていた気がした。(この不安定さについてはまた考えたいと思う。役が足りないとかじゃないと思うんだけど)
絵のカメラの持って生き方の綺麗さや表情の書き方、すこし小説っぽい言葉選び、小物の使い方のうまさなど技術としてもかなり好きな書き手なので次の東京グールも楽しみです。
だれもが13巻付き合ってきた死んでしまった彼らの思いがあって次の章にいくというのはとても重いかも、と思う。
- 感想投稿日 : 2014年10月19日
- 読了日 : 2014年10月19日
- 本棚登録日 : 2014年10月19日
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