新書434 歴史の読み解き方 (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2013年11月13日発売)
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司馬遼太郎の歴史文学の神髄に迫る「司馬文学を解剖する」、幕末各藩の藩士教育を比較検討し、危機管理の必要性を説く「幕末薩摩の『郷中教育』に学ぶ」、「歴史に学ぶ地震と津波」では大災害にいかに備えるかを論じる珠玉の歴史評論集。(2013年刊)
・江戸の武家生活から考える
・甲賀忍者の真実
・江戸の治安文化
・長州という熱源
・幕末薩摩の「鄕中教育」に学ぶ
・歴史に学ぶ地震と津波
・司馬文学を解剖する

索引があるかないかで本の価値が決まると言ったのは誰であったか、文庫の随筆集にはあったのに、新書には無いというのは、豊富な資料を使っているだけに残念なことである。

ネタは面白い。著者は古文書探しの名人で正確に解読できるという。(自称古文書スーパーコンピューター)しかし論じ方が気になり、どうにも座り心地の悪さを感じる。本書は大変わかりやすく書かれているが、わかりやすいゆえに疑問な点もあり、読んでいてモヤモヤする。

例えば戦艦大和を引き合いに「専門家は目が狭く、空母の時代だから空母を作ろうと言わないこともある。それを上層部が追認してしまうと、海上の高級ホテル・戦艦大和ができてしまいます」と解説している。この説明は一般論として専門家は視野が狭いイメージがある事、大和が飛行機に沈められた事実と突き合わせるとを考えると一見納得させられるが、果たしてこれは歴史的事実と言えるのだろうか、大和は1937年に起工されているが、その当時が空母の時代だったと言えるのだろうか。1941年に太平洋戦争が始まるが、その当時が空母の時代だったと言えるのだろうか。(チャーチルは日本軍の侵攻を阻止させる事を目的とし戦艦プリンス・オブ・ウェールズとレパルスをシンガポールに派遣したが、マレー沖海戦で航空機の攻撃により撃沈したことに戦争全体で一番の衝撃を受けている)
結果的にみると日本は間違った選択をしたかもしれないが、どうにも過程が気になる。

著者は会津藩の教育を、かたくなで柔軟性に欠ける面が倍加したとして、白虎隊が城下町が燃えているのを落城と勘違いして自刃を例を挙げている。どうもこれは俗説であり、実際は敵の包囲をくぐり抜け城内に入る事は困難だと判断し自刃を選んだようである。両者とも柔軟性に欠けたという結論は変わらないかもしれないが、どうにも過程が気になるのである。
逆に、薩摩藩の鄕中教育を評価しているが、西南戦争の体たらくをみると、どちらも一長一短あったような気がする。
どうにも、都合の良い点を集めて、意見主張しているようで座りが悪い。
(もっとも自分の意見「最悪の事態を考える事の大切さ」を主張するために、あえてその様にしているのかもしれない。)

あと瑣末なことであるが、家康の有名な逸話について、鳥居元忠の父が家康を岡崎城の倉庫に案内し「この銭は家康公が徳川家を再興するため銭です」と言ったという事が気になりました。

「甲賀忍者の真実」「歴史に学ぶ地震と津波」「司馬文学を解剖する」は面白い。なかでも「歴史に学ぶ地震と津波」は必読です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史(江戸)
感想投稿日 : 2013年12月4日
読了日 : 2013年12月4日
本棚登録日 : 2013年11月11日

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