小村寿太郎 - 近代日本外交の体現者 (中公新書 2141)

著者 :
  • 中央公論新社 (2011年12月17日発売)
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偉大なる「ねずみ公使」の真実
幕末に結んだ欧米列強との不平等条約の改正を目指し、一九〇〇年代に日英同盟、日露戦争、韓国併合を推進した外相・小村寿太郎。日向国飫肥(おび)藩の下級藩士に生まれた小村は、病弱で一五〇センチに満たない身長、非藩閥出身と恵まれない出自ながら、第一回文部省留学生としてハーバード大学に留学。抜群の語学力と高い交渉能力を身につけ、日本を「一等国」に引き上げた。帝国主義と国際協調の間を巧みに動いた外政家の真実。
 序 章 二つの視角
 第一章 維新の激動のなかで
 第二章 外務省入省 官僚への転身
 第三章 日清戦争の勃発 駐清・駐朝公使時代
 第四章 「ねずみ公使」として 義和団事件への対応
 第五章 日英同盟と日露戦争 一九〇一年、外相就任
 第六章 戦時外交と大陸進出 「満州問題」の発生
 第七章 同盟国の外交官 駐英大使として
 第八章 米中の狭間で 第二次外相時代
 終 章 小村外交とは 帝国主義外交下の権力政治

小村寿太郎というとポーツマスの旗。日露戦争の講和条約を結ぶため全権大使として活躍した事が思い出されるが、それ以外は印象が薄い。
日露戦争が終わった後に、あっさりと死んでしまった印象が強いが、本書を読むとその事績がわかる。
アメリカ留学後に、司法省に入省していた事は知らなかった。外務省に転じた後、陸奥宗光に見出され飛躍のきっかけをつかむとするが、本書を読んでもいまいち解りずらい。本書を読んでもさほど優遇されているようにも思えない。本書でも陸奥派三羽ガラスとして、原敬、加藤高明、林董をあげている。小村は翻訳局長から一等書記官を経て駐清臨時代理公使となる。
小村は閑職であることを利用して猛勉強に励むが、朝鮮の甲牛農民戦争をきっかけに清国と対峙することになる。日清開戦により帰国するが、戦地の民政庁長官に就任し、その手腕を山県・桂に評価される。仕事ぶりを評価された小村は、政務局長に就任し出世コースに乗るのである。
本省での活躍に対し公使としての小村は、非社交的生活を続け評判が良くない。小村が本領を発揮するのは乱世にあると言える。

小村の評価が分かれるのは「桂・ハリマン協定」の破棄である。南満州鉄道の日米共同経営が実現していれば、その後の日米対立は避けられたという考え方は大変魅力的であるし、私も小村の失策と考えていたが、著者は協定により満州で対立を避けたとしても朝鮮をめぐって日米衝突を早める危険性があったと指摘している。一考に値する見方だと思う。

小村は日露講和後6年後に病死するが、その間も枢密顧問官、駐英大使、外相として活躍する。日露講和というハイライトからみると地味な晩年であるが、第二次外相時には韓国併合を主導している。

不満な点もある。読み易さを重視したため典拠を示していない事は残念である。また、小村に対する見方が甘い気もする。
本書は小村寿太郎の評伝として貴重な一冊であり、小村を通して日本外交(日英同盟を含めた列強との交渉)を知る事が出来るのが面白い。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史(戦前)
感想投稿日 : 2013年9月1日
読了日 : 2013年9月1日
本棚登録日 : 2012年1月8日

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