ハゲタカ2(上) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2007年3月15日発売)
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本棚登録 : 2719
感想 : 228
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3.5
前回の飯島のパンドラの箱を米メディアに流し身の安全のため1年程海外を放浪していた鷲津。アランの死から物語が始まる。鈴紡と月華(カネボウと花王らしい)を巡る買収の話が骨子。加地率いる日本のファンド、UTBグループなど裏工作を含めた買収合戦が始まる。結局飯島の日本ルネッサンス機構の救済の形に。M&Aの世界が垣間見え勉強になる。離婚寸前だったアルコール依存症の妻に寄り添う芝野の姿も描かれるなど、鷲津、リン、芝野、飯島、貴子など各々の状況が少しずつ進み続編としてもなかなか面白い。

鈴紡は経営者と労働者とが同じ舟に乗る運命共同体的「ノアの方舟構想」を標榜し名誉顧問である岩田が45歳から82歳の現在に至るまで君臨してきた。カリスマ経営者は右肩り上りの時は会社を勢いづけるが低成長期には恐怖政治に変わる。当社は部下の意見をよく聞き議論していたリーダーも、自信を持ち周りにイエスマンしか置かなくなる。多角化経営という古い考えを捨て、コアビジネスに特化することが鍵という状況だった。労組も強い。岩田春雄、経済成長期には世界にその名を轟かせた経営の神様。運命共同体的「ノアの方舟構想」による労使一体経営、7つの異なる事業を独立させ相乗効果によって事業の安定と拡大を狙ったセブンスター計画など、独自のビジョンと力強い言葉で、社員や日本中の企業に大きな影響を与えてきた。家族主義的な年功序列制度は残しつつ、若い社員を登用するための様々な制度を作った人でもある。

労組、名誉顧問、役員陣など誰と組むか交錯する中、情報や各々の態度を見極めるために会うときのセリフ。「組むとは言ってない。彼(岩田顧問)を敵に回しては勝てないと言っているんだ。俺たちに大切なことは何だ、前島。フェアプレイか。そうじゃない。勝つことだ」

企業買収が成功するかどうかのカギを握るのは世論と言っても良い。ビジネスとして最良の選択でも世間を敵に回すと勝利はおぼつかない。後出しの方が、先案の弱みをついたキャンペーンで世間を味方につけやすい。また、大型案件には政治介入もある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 企業小説・職業小説
感想投稿日 : 2020年8月8日
読了日 : 2020年8月8日
本棚登録日 : 2020年8月8日

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