この本は猫が書いたらしい。
読んだ娘がそう言っていたのを聞いて、「んなワケないやろ!!」とバッサリ切っていたが、プロローグからやられた。
「ねこに字が書けるわけがないって、そう思ってるんだろう。人間ってやつはいつもそうさ。なにか、めあたらしいことをきくと、すぐにうたがうんだから。むかし、コペルニクスって人が、太陽が地球のまわりをまわっているんじゃなくて、地球が太陽のまわりをまわってるんだっていったとき、やっぱりみんなはすぐに信じなかったそうだし、なかにはそれを聞いて、ゲラゲラわらったり、かんかんにおこったりした人もいたそうだよ。」
そりゃ…そうだ。今までの常識を覆すことをバッサリ切るのは、「コペルニクスの発見」をゲラゲラ笑った民衆と同じ。それを猫に教えられるなんて!
そして、それを人間に教えられる猫はなんて「キョウヨウ」があるのだろう!
この本の主人公で著者の「ルドルフ」は黒猫。子猫の時に魚屋からシシャモを盗んで追いかけられた時にトラックの荷台に隠れ、そのまま一晩乗ってしまい、自分の住んでいた町から遠く離れた東京都江戸川区に来てしまったのだ。
飼い主の町から遠く離れ、途方に暮れていたルドルフを助けてくれたのは、強そうなトラネコ。名前を聞くと「俺のなまえは、いっぱいあってな」と言うので、ルドルフはそのトラネコの名前が「イッパイアッテナ」だと思い、そのまま呼ぶことになった。
イッパイアッテナは今は野良猫で、他の飼い猫たちからは怖がられる存在であったが、同じ立場となってしまったルドルフには優しかった。人間と上手く付き合って餌をもらえる方法など色んなことを教えてくれた。イッパイアッテナには「キョウヨウ」があったから。何故かというとイッパイアッテナが野良猫になる前の飼い主はイッパイアッテナに文字を教えてくれたので、イッパイアッテナは本を読むことが出きたのだ。
そして、イッパイアッテナもルドルフに文字を教えた。小学校の校庭の砂に何度も何度も前足で書いて。ひらがなとカタカナをルドルフが覚えるとイッパイアッテナはルドルフを連れて休みの日の小学校に忍込み、教室の学級文庫の本を取り出して、図鑑などを見せて勉強することを教えた。
夏休みのある日、小学校に休日出勤していた「クマ先生」に小学校の職員室に入れてもらい、そこのテレビに写っていた町の景色がルドルフの故郷であったので、ルドルフは岐阜から来たことが分かった。そしてある日、商店街の岐阜へのバス旅行のポスターを見て(字が読めたから)、そのバスに忍込めば、ルドルフが帰れること、そして、やっと飼い主のりえちゃんに会えるという目処がついた。
そしていよいよバス旅行の前日、明日はイッパイアッテナとお別れしてルドルフは岐阜に帰るという日、イッパイアッテナはルドルフへの餞別に喜ばせてあげたくて、ある計画を立てたのだが……。
動物たちの友情と飼い主との再会のための冒険。昔観ていた英会話教材の「リトル・チャロ」を思い出す。
この童話、思っていたよりも古く、1987年に第一版だった。イッパイアッテナはルドルフに「どの家にもある」漢和辞典や百科事典の使い方を教え、ルドルフが岐阜に帰ってからも勉強を続けられるように励ましていたが、今は漢和辞典はどの家にもある本ではないだろうな。今なら彼らはどんな生き方をするだろう。
- 感想投稿日 : 2024年1月2日
- 読了日 : 2024年1月1日
- 本棚登録日 : 2024年1月1日
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