私は島尾ミホさんの「海辺の生と死」を先に読んでおり、美しい加計呂麻島の自然の中で育ち、終戦間近に島尾敏雄と出会って恋に落ちるミホさんの半生が豊かな感性で描かれる本作に感銘を受けましたもので、
じゃあ、まあひとつ、「死の棘」も読んでみるか…という感じで「死の棘」を読んだのですが…
夫婦の正視できないような凄惨な家庭崩壊の図、その昏さに「あー読まなきゃ良かった」と心底後悔したものです。
加計呂麻島の美しい自然のなかで心が洗われるような清らかな恋…からの目を背けたくなるような地獄絵図…。
「死の棘」は自分にとっては「イヤミス」ならぬ、「イヤ私小説」でした。
しかしながら、自分の不貞によって精神を病んだ妻に寄り添い、時には一緒に入院するなど献身が美談とされた「死の棘」。
でもこれが本当に美談なのか?
敏雄氏が震災も体験せず、特攻も出撃を翌日に控えて終戦し、小説のネタになるような事が身の回りにないのをコンプレックスに思っていた事や、
気に入った女がいる時に、わざと日記を読ませるように仕向けて間接的に口説くのが敏雄氏の常套手段だった事などから
「死の棘」に書かれた家庭崩壊の発端となる日記…これが敏雄氏の企てではないか?
との推論を掲げて、敏雄氏の生い立ちや交友関係などを緻密に積み上げて論証していったり、ミホさんの方ももちろん、生い立ちや彼女の発言や作品などからパーソナリティを読み解き、「死の棘」を読んだだけでは想像もできない作品の裏の顔を炙り出していくルポルタージュはお見事!
内容も重厚でしたが、本も重厚で、持って歩くのに苦労しました。
でも大変興味深い内容で読み応えがありました。
- 感想投稿日 : 2023年6月12日
- 読了日 : 2023年6月12日
- 本棚登録日 : 2023年6月12日
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