わたしは「セロ弾きのゴーシュ」 中村哲が本当に伝えたかったこと

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  • NHK出版 (2021年10月25日発売)
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ガンジーといい中村医師と言い、尊い人がなぜ同じ人間の手で殺されてしまうのだろう。
先生のことを知ってから、ずっとその疑問が頭の中にあります。答えは出ません。善悪や道徳で世界は回っていないということを突きつけられる心地です。
そして、私はそんな正しくない世界に生かされているんだな、としみじみ思います。蛇口をひねれば水は飲めるし、近くの川が涸れることはない。職や家を失っても、いきなり死ぬことはありません。何より、生活の中で爆弾が落ちてくる危険はほぼ皆無。
私は前世で何か偉大な功績でも残したのでしょうか?アフガニスタンの人は、何を対価に支払ったらこの生活ができるのでしょう?
誰がどう見ても不公平なのに、これが現実です。
不公平すぎて、“中村医師が殺されてしまうような歪んだ世界だからこそ、私は生きていられるのかもしれない…自分は世界の歪みの一部なのかも知れない…”そんな罪悪感のようなものが、じわりと胸に滲みます。
(だからといって“日々の行いを正そう”的な話に帰結してしまうのは浅薄な気もしますし、アフガニスタンに生きる人々が不幸と言いたいわけではありません)
(日本に生まれたせいで、物質的な欲望をずっと刺激され、当たり前の幸福感を奪われている…という見方もできるので)

とりあえず、全くもって正しくはない世界ですが、私はなんの因果か今日も生かされています。
生かされている以上、冒頭の問の答えを探し続けたいと思いました。
おそらくそれが幸福に繋がると信じています。

※何気に『セロ弾きのゴーシュ』が収録されているので、再読したらゴーシュの不器用な人柄がいっそう好きになりました。華々しく評価される人よりも、隅っこを照らす人の灯りに気づける人でありたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年11月15日
読了日 : 2022年11月15日
本棚登録日 : 2022年11月15日

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