室町の王権: 足利義満の王権簒奪計画 (中公新書 978)

著者 :
  • 中央公論新社 (1990年7月1日発売)
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【書誌情報】
初版刊行日 1990/7/25
判型 新書判
ページ数 232ページ
定価 本体760円(税別)
ISBN 978-4-12-100978-4 

強大なカリスマ性をもって、絶対主義政策・中央集権化を支持する官僚・公家・寺社勢力を操り、武家の身で天皇制度の改廃に着手した室町将軍足利義満は、祭祀権・叙任権などの諸権力を我が物にして対外的に〈国王〉の地位を得たが、その死によって天皇権力簒奪計画は挫折する。天皇制度の分岐点ともいうべき応永の時代に君臨した義満と、これに対抗した有力守護グループのせめぎあいの中に、天皇家存続の謎を解く鍵を模索する。
http://www.chuko.co.jp/shinsho/1990/07/100978.html

【目次】
はしがき [i-ii]
目次 [iii-v]

天皇家権威の変化 001
一、親政・院政・治天の君 002
  院政の成立
  治天の君
  承久の乱後の院政
  権門体制
  後光厳の践祚
二、改元・皇位継承・祭祀 014
  天皇の世俗権喪失
  改元
  皇位継承
  祭祀

足利義満の王権簒奪計画 033
一、最後の治天――後円融の焦慮 031
  緊迫する公武関係
  義満と後円融の関係
  義満に肩入れをした宮中の有力者
  追従する廷臣たち
  後小松天皇即位問題
  後円融の怒り
  後円融の窮状
  崇賢門院の収拾
  治天の君の沈黙
二、叙任権闘争――廷臣・僧職の官位 053
  室町期の官位制
  武家の官位除目介入
  義満の「仰」
  「宸筆を申し出ずるに及ばず」
  室町第で舞踏する公卿
  武士の官職辞令の変化
  僧職・神職の官位叙任
  新儀の案出
三、祭祀権闘争――国家祈祷権の獲得 075
  廻祈祷
  北山第での「院政」
  北山第に移された祭祀権
  陰陽道祭
  中国崇拝思想
  攘敵祈祷
四、改元・皇位への干与 097
  改元への干与
  葬られた洪徳の年号
  改元干与断念
  皇位継承干与
  天照大神以来の正統失墜

国王誕生 109
一、日本国王への道 110
  出家素懐の動機
  国王御教書の成立
  日本国王源道義
二、上皇の礼遇 124
  太政大臣拝賀
  山門講堂供養
  北山第の紫宸殿
  書札礼
  相国寺大塔供養
三、百王説の流布 143
  百王とは
  「野馬台詩」の謎
  終末観的百王説と天皇家の盛衰
  百王流竭と義満
四、准母と親王元服 155
  乗っ取りへの階梯
  准母冊立案
  国母選定工作
  天皇の准父
  繧繝縁に座った義満 

義満の急死とその後 169
一、義満の死と簒奪の挫折 170
  義満の真意
  尊号辞退
  簒奪反対の勢力
  ”万世一系”維持の動き
二、皇権の部分的復活 184
  後小松の反撃
  錦の御旗
  綸旨頻発
  天皇親政復活のきざし
三、戦国時代の天皇 198
  式微説と没落説
  高まった猟官運動
  織豊政権と天皇
  調停権の復活と封じ込め

むすびにかえて(一九九〇年六月 今谷明) [216-219]
参考文献 [220-222]



【抜き書き】

□□pp. i-ii.
――――――――――――
    はしがき 
 天皇家がなぜ続いてきたか、これは歴史家に突きつけられた解かれざる千古の命題である。最近、松本清張氏は極めて直截な形でこの疑問を歴史学界に投げかけられた。
 いわく

“その間、天皇家を超える実力者は多くあらわれている。とくに武力を持つ武家集団、平清盛でも源頼朝でも、北条氏でも足利氏でも、また徳川氏でも、なろうと欲すればいつでも天皇になれた。なのにそれをしなかった(中略)。どうして実力者は天皇にならなかったのか。だれもが知りたいことだが、歴史家はこれを十分に説明してくれない。学問的に証明できないのだという。(「神格天皇の孤独」『文藝春秋』八九年三月号)”

 このような素朴な疑問、また余りにも正当な疑問に対し、歴史学界は真摯に応える必要があるだろう。本書は、松本氏の設問に対し、一中世史学徒として一つの回答を試みたものである。もとよりその叙述が成功しているか否かは読者の判断にお任せするしかない。
 本書の構成は、武家の身ではじめて天皇制度の改廃に着手し、いわゆる“篡奪”寸前まで行った足利義満の宮廷革命を中心に叙述している。その理由は、天皇家存続の謎を解くカギが、この時期に集中していること、また義満の行実を追うことによって、天皇の権力・権威の内実がおのずから明らかになるからである。しかし、義満の急死という偶然的事情も重なって、結果的に簒奪は不成功に終わった。義満の強大なカリスマ的権威にも拘らず当時の社会の中核的部分に、篡奪に反対する根強い勢力が存在し、“万世一系”維持へ大きな役割を果たした。皇家存続の謎は、一にかかってその辺の力関係に由来しているといってよかろう。織豊政権・幕藩体制が天皇制度を超克し得なかった事情も、その延長線上で解釈できるのである。戦後歴史学は、天皇制度維持システムの政治力学を、突きつめて考察することを放棄し、近年は非農業民や文化人類学的手法でこの問題を説明しようとしている。しかし天皇制度が、すぐれて政治的存在である以上、あくまで政治史の問題として分析する努力を持続することが不可欠であり、いくら民俗学・人類学的方法をもってしても、そこからは結果論的解釈しか得られないであろう。
 最後に、本書の用語についてお断わりしておきたいことは、コミンテルン32年テーゼの訳語である「天皇制」なる用語を前近代の事象に当てはめて説明することは誤解を招きやすく、また「天皇制」の意味するところがまちはらであるため、本書では原則としてこの用語を使わず、便宜「天皇制度」などで表現することとした 明治以後用いられる「皇室」なる語も同様に使用せず、天皇家・皇家などと表現している。
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読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  210.日本史
感想投稿日 : 2018年9月19日
読了日 : 2014年12月22日
本棚登録日 : 2013年8月28日

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