心を商品化する社会: 「心のケア」の危うさを問う (新書y 112)

  • 洋泉社 (2004年6月1日発売)
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 『心を商品化する社会』(洋泉社新書 2004.06.21)  小沢牧子 中島浩籌:共著
 2015.03.05 読了

【テーマ】
90年台から流行ってきた「心の専門家」や「心理主義」の問題点をハッキリ指摘する。また、その背景には、個人主義(法学的な意味ではなく、自己責任論にみられる大衆化した意味での個人主義)を益々重視している社会からの風潮が存在するという。これ(単純化すると、カウンセラー不要論)は著者の小沢牧子氏が以前から主張していることで、本書は『心の専門家はいらない』(洋泉社新書 2002年刊)の続編になっている(かといって本書から[のみ]読んでも不都合はないが)。
 執筆分担は、前半の1~3章は小沢氏。後半の4~6章が中島氏。

【感想】
 細かい点で共感できないこともあるが全体的に興味深い。特に、社会的なこころブームを説明している第二章。「カウンセリング」の流行や、心理カウンセラーの学校配置の経緯にも触れられている。
 本書の主張に関しては、私自身が専門知識も検証の余裕もないので内容の判断は保留する。マトモに見える主張もどの程度まで敷衍できるかが分かるほどの議論もこの分量では載せられない。まあ、それこそ別の本を調べればいいことか。本書は刊行当時に多少話題にはなった様なので議論は生じたはず。とりあえずは賛否両面の意見を拾ってみたい。


・著者紹介(2004年当時の情報)
小沢牧子……1937年北海道生まれ。臨床心理学論、子ども・家族論専攻。いくつかの教育相談の職場を経たのち、和光大学などの非常勤講師、国民教育文化総合研究所の運営・研究委員をつとめた。

中島浩籌……1946年島根県生まれ。慶応大学、パリ大学ヴァンセンヌ校などで現代思想を学ぶ。都立高校教員を経て、現在、河合塾COSMO、法政大学で講師をつとめる。YMCAオープンスペースliby、日本社会臨床学会運営委員。


【簡易目次】
第1章 心理主義とは何か
 1.1 心理主義をどうとらえるか 016
 1.2 心理主義浸透の社会背景 021
 1.3 個性の序列化と心理学 034
第2章 現代生活に浸透する心理主義
 2.1 作り出された「心」ブーム 040
 2.2 「心のケア」の増殖 044
 2.3 女性問題と心理主義 054
 2.4 社会の心理主義化がもたらす諸問題 068
第3章 『心のノート』と心理学
 3.1 『心のノート』の背景 082
 3.2 「心の教育」から『心のノート』 090
 3.3 「国の子」への誘導 106
第4章 予防的心理学的まなざしの浸透
 4.1 広がる予防的心理学的まなざし 122
 4.2 治療から予防へ――予防的まなざしの心理学 140
 4.3 コントロール社会と予防的まなざし 150
第5章 成長促進のまなざしと自己実現
 5.1 心理学と自己実現の広がり 166
 5.2 自己実現を求める社会 172
 5.3 自己実現の問題性 183
第6章 解決ではなく問題を重視する関係
 6.1 問題解決を急ぐ社会 194
 6.2 解決よりも問題を 204


【目次】
まえがき 003

第1章 心理主義とは何か 015
  1.1 心理主義をどうとらえるか 016
「心」の氾濫 切り刻まれる全体性 社会的不平等の隠蔽
  1.2 心理主義浸透の社会背景 021
個別化の進行――人間関係力への渇望 減少する「ライブ」体験 時間要因の軽視――消費社会の「モラル」 短期療法の普及 「個性」の強調――あらたな選別のしくみ
  1.3 個性の序列化と心理学 034
個人差研究と優生思想 「個性の値踏み」への奉仕 学問と政治の結びつき

第2章 現代生活に浸透する心理主義 039
  2.1 作り出された「心」ブーム 040
「精神世界」という商品 「精神」から「ココロ」へ
  2.2 「心のケア」の増殖 044
必要な援助とは何か 戦争も「心のケア」さえあれば? 労働現場とカウンセリング 現場の悩みの解決は現場で 「犯罪被害」にどう向き合うか
  2.3 女性問題と心理主義 054
関係技法の「修行」 女性問題と自己主張訓練 自己表現手法によって失われるもの フェミニストカウンセリングの変遷 「悩むこと」に専門家は必要か 関係性の困難に向き合う
  2.4 社会の心理主義化がもたらす諸問題 068
生活場面の心理主義化 思索から感情の問題へ 資格問題論議の経緯 誰のための資格か

第3章 『心のノート』と心理学 081
  3.1 『心のノート』の背景 082
歌は世につれ 振り分けの進学校 エリートの養成と徳育の浮上 徳育と心理学の結合
  3.2 「心の教育」から『心のノート』 090
学校への心理学の参入 大学の自治への介入 「心の教育」の登場とその変遷 「自由の衣」の下にある鎧 内省的視座への導き 『心のノート』に見る心理主義的手法
  3.3 「国の子」への誘導 106
「畏敬の念」のイメージ作り 「宗教的情操」と国家神道 ふるさとと国家のあいだ 国家道徳と心理主義の共通性

第4章 予防的心理学的まなざしの浸透 121
  4.1 広がる予防的心理学的まなざし 122
予防的なまなざし、早期発見のまなざし 心のサインを見逃すな 予防的・成長促進的カウンセリングと学校 労働者のメンタルヘルスと予防的まなざし 杉本治君の事件 「サインを見逃すな」の問題性
  4.2 治療から予防へ――予防的まなざしの心理学 140
大さんの精神医学革命と予防的まなざし 予防的心理学の日本への導入 予防とは、危機とはどういうことなのか 危機介入の問題点
  4.3 コントロール社会と予防的まなざし 150
閉じ込め・監禁から地域管理・コントロールへ 規律社会コントロール社会へ 人を変容させる技術と休みなき監視 まなざしは抽象的要素を問題とする クライエントとの共在から間接的関係へ 現実的具体的問題からの逃避 監視と隔離のネットワーク

第5章 成長促進のまなざしと自己実現 165
  5.1 心理学と自己実現の広がり 166
自己実現という言葉の浸透 マズローの自己実現概念とその産業界への浸透
  5.2 自己実現を求める社会 172
教育界と自己実現 自己実現としてのキャリア形成 自己実現を支える生涯学習システム 能力開発とカウンセリング
  5.3 自己実現の問題性 183
固定的アイデンティティから流動的なアイデンティティ 働く意味に悩む人たち 自分の可能性とは?――自己実現概念の危うさ 自己実現社会と怠惰

第6章 解決ではなく問題を重視する関係 193
  6.1 問題解決を急ぐ社会 194
解決を急ぐまなざし 解のある問題と簡単には解がでない問題 人を苦しめる、解決を急ぐまなざし 問題のすり替え
  6.2 解決よりも問題を 204
主体をおいつめる問い 問題はかかわりをとおして立ち上がる 問う力

あとがき    213
引用・参考文献 217



【前著『心の専門家はいらない』の構成】(おまけ)
序 章 臨床心理学をなぜ問うか
第1章 現代社会とカウンセリング願望
第2章 「心の専門家」の仕事とその問題群
第3章 スクールカウンセリングのゆくえ
第4章 「心のケア」を問う
終 章 日常の復権に向けて

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 146.臨床心理学
感想投稿日 : 2015年3月7日
読了日 : 2015年3月7日
本棚登録日 : 2014年3月4日

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