教科書「一つの花」でおなじみの今西さんの作品。
江戸時代後期に石造りのめがね橋を架けるために尽力した人々のドラマ。
主人公、岩永三五郎の職人としての気持ち、薩摩に呼ばれた後に❮永送り❯されてしまった同僚たちの家族への贖罪の気持ちへの、揺れる感情が苦しい。
人斬りの徳之島の仁(なんという名前、なんという人生、しかも子供時代の作者に身近な大人がモデルになったという)、宇吉、里と吉、みんなの思うままにならぬ、それでも生き抜く強さに感心させられた。
橋をつくるために奔走する、庄屋や、総庄屋、その上の役人たち、それぞれの胸のうち。
九州の山のなかで、こっそり京の大商人に通じながら、ロウやハゼの密造、密売で儲ける豪商がなんだか怖い。
作者のあとがきにも、心が揺さぶられた。
たまたま、生き残ったという戦中の体験が、三五郎のなかに生きているのだろう。
現在では、三五郎の手による、これらの素晴らしい橋は、人の手によって失くなってしまった、とサラリと締められる一文。
悲しい、寂しいことです。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2022年8月14日
- 読了日 : 2022年8月14日
- 本棚登録日 : 2022年8月14日
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