全一冊 小説 上杉鷹山 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (1996年12月13日発売)
4.28
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本棚登録 : 1193
感想 : 138
5

意外にも感動する小説!

歴史小説としては、平易な文章で、さらに現在の文言にたとえる解説がついていることもあり、とても読みやすい物語でした。なので、歴史小説と思って読むと、ちょと肩透かしです。さらに小説としては、時間軸がわかりにくいところもあり、また、いくつか「あれ、この件は結局どうなるの?」というところもあって、いまいち。
なので、歴史小説として読み進めるよりも、「もしドラ」のようなビジネス小説として捉えて読み進めるのがしっくりきます。

ストーリーとしては、17歳で米沢藩の藩主となった上杉鷹山の藩政改革をそのリーダシップとマネジメント力で実現していく物語です。
暗い雰囲気の米沢藩、改革に伴う反対勢力、変わろうとしない重臣、けなされ、邪魔され、小ばかにされ、何度も心が折れそうになりながらも、米沢藩の民のために自分の信念を貫き通して、改革を実現していくストーリになっています。
そして、その中でも、胸を熱くさせるシーンが、反対派に邪魔され、ぼろくそにけなされ、打ちひしがれつつある中で、改革の炭火を北沢に分け与えるシーン。
この初めての協力者・理解者を得るシーンにはグッと来るものがあります。
また、重役の反乱にあい、藩士たち全員をあつめて、自分の行いの是非を問うシーン。
改革を、そして、自分自身を認めてくれているのかどうかを藩士たちに問い、結果、賛同を得るこの場面には、「気持ちは伝わる」ということが心を揺さぶられます。

そんな感動シーンもありながら、やはり、リーダシップ、マネジメントに関するところが本書のメインでしょう。
とりわけ、リーダシップという意味では、彼の人に対する取り計らい、取り扱いについてはとてもじゃないけどまねできません。
通常なら、自分がその組織のトップなわけなので、反対派や邪魔する連中については、厳罰に処することもできるはず。しかし、そのようなことは行わず、彼らが変わることを待ちます。
自分のことをこれだけ小ばかにする連中なのに、きちんと礼をつくす。そんな姿勢は自分には無理ですね(笑)
そして、最後の最後に処分を冷徹に下します。さらに、それが感情的なものではなく、論理的な判断からの処分になっているところがスッキリ。
卓越した人間力を感じます。

改革とは、組織やシステムを変えるのではなく、人そのものが変わることということが大きなメッセージとして受け止めました。

また、彼のリーダシップタイプもポイントです。
江戸時代なのに、専制型のリーダシップではなく、ビジョン型+民主型。
さらに、統率型なのに、完全な統率型ではなく、サポーターやフォロワーにさまざまな支援を得て、改革を実現しています。
結果的には統率型リーダだったために、カリスマのようになってしまい、かつ、後継者が育たず別な意味で苦労していますが、愛と人徳をもったすばらしいリーダだったのだと思います。
格好いいですね。(人徳がないので、まねは出来ないけど..)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス小説
感想投稿日 : 2013年10月19日
読了日 : 2013年10月19日
本棚登録日 : 1970年1月1日

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