ケアを問いなおす: 深層の時間と高齢化社会 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房 (1997年11月1日発売)
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感想 : 13
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以前読んだ『死生観を問いなおす』が衝撃的に面白かった、大好きな広井先生の本。面白かったけど、『死生観を問いなおす』ほどの衝撃はなかったかな…

私は政策的な、高齢化社会とケアはどうあるべきか?みたいなことにはほとんど関心がなくて(少なくともこの本を読む動機としては)、「ケアとはなにか」に関心があった。

なので、「第1章 ケアする動物としての人間」と「第5章 ケアの科学とは」、「第6章 〈深層の時間〉とケア」が面白かった。(本の中心を占める2章から4章はあんまり…)

特に1章が興奮。だってケアの話するのに、脳の発達の話から始まるんだぜ?
そしてハイデガーのいう「気遣い」とは、英語では「ケア」と訳されている→『存在と時間』はケアの哲学だ!「ケアが世界に意味を与える」「世界を世界たらしめるのは、ケアである」…

なにがしびれるって、壮大なことを考え、語るのに、言葉は平易で読みやすく、無駄な説明は一切なく、簡潔に、なのに静かな説得力を持っている、この広井先生の筆の運び…

私は「ケア」って言葉が好きで、それは、「世話を焼く」っていう狭義の意味での「ケア」ではなく、I care
というときの、「気にかける」「大切に想う」、心理臨床的な言葉で言うと「まなざす」かな?という意味で、それが本質的な人と人との間に生起する、私の言葉で言うと「愛」だと思うからなんだよね。

そしてその、人を人たらしめるものとしてのケアと、時間(死と老い)、それを支える制度まで、ミクロからマクロまでを語っているという点で、広井先生らしいご本だなと。

この本が書かれてから20年以上が経過するわけだけれど、この本に提案されているような、医療モデル、予防/環境モデル、心理モデル、生活モデルの4つが、それぞれに越境しながら高齢者のケアにあたるという世界は築かれているかしら?
おそらくは、生活モデルを支えるソーシャルワーカーが、このときよりは社会的地位を得てきているのではないかと思われ、それは希望だけど…。制度の上ではまだまだよね。

この本の中で、チラッと触れながらも扱わなかった、「かつてケアは家庭の中で女性たちが担ってきた、だからそれらは無料・無償で当然で、それが外だしされ仕事となった今も“誰にでもできる簡単な仕事”として軽視され、報酬も非人道的なほど低い」(これは引用ではなく私の言葉)という問題点が解消されないと、提供されるケアのレベルには限度がある(個人の努力では超えられない)と、心から思う。


読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: グリーフケア、死生観
感想投稿日 : 2020年3月25日
読了日 : 2020年3月25日
本棚登録日 : 2020年3月25日

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