美と王妃たち

  • 河出書房新社 (2004年5月11日発売)
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「フランスのありとあらゆる作家たちのなかで、ジャンヌ・ダルクは私が最も感嘆敬服する作家である。彼女は文字の書き方を全然知らないのに、十字架で署名した。だが、私は彼女が使う言語を、そして至高のものであるその簡潔さのことを語っているのだ」ジャン・コクトー

フランス革命100年後に生まれた多才なる芸術家は、小説家、評論家、批評家、映画監督脚本家、バレエ脚本家、画家などその多岐にわたる創作活動のなかで詩人と呼ばれることを最も好んだという。
ベル・エポックに多樣な光を放ち続けた彼のことを書くとき、彼と出会い親しく交流してきた人々のことを思いださずにはいられない。
ディアギレフ、ストラヴィンスキー、サティ、モディリアーニ、ピカソ、キスリング、コレット、マン・レイ、ダリ、ココ・シャネル、エディット・ピアフなど、彼らが出会うことで生れる濃密な芳香の花々をわたしたちは知ることになる。
それらの花は、絵であり、言葉であり、音であり、声であり、映像であり、芸術であった。
哀しいかな原語を読めない私は、
堀口大學氏の翻訳のコクトーの詩集、『阿片』を読み、
澁澤の翻訳した『大股開き』『ポトマック』を読み、
山上昌子さんの訳した『鳥刺しジャンの神秘』を見、
高橋洋一さん訳の『恐るべき子供たち』そして、今回、和訳されていなかった『美と王妃たち』を高橋さんの訳と解説で愉しんだ。
本書は、20人のコクトーにとっての王妃たちが登場し、彼女たちは、コクトーの熱い視線と情熱を持ったキレ味の良い筆致で描かれている。
20人の王妃たちは、戴冠してるしていないにかかわらず、彼にとって王妃的存在であり、あり続けた女性たちである。
聖女ジュヌヴィエーヴ、ジャンヌ・ダルク、マリー・ド・メディシス、ポンパドゥール夫人、レカミエ夫人、サラ・ベルナール、リアーヌ・ド・プジィ、ノアイユ伯爵夫人など、波乱に富んだ人生を送った彼女たちを自由な筆で描く。そして、20人目の王妃は「未来の女性」なのである。
本書には『暗殺として考えられた美術』も收録されており、キリコ、ダリらを中心に展開する美術論は読み応えがある。
「傑作は罠であり、その主題はひとかけらの砂糖だ」
コクトーは対象にそっときらめく刃物をいれる。血も光も見逃さない。
彼が愛したラディゲはあっけなく死んでしまう。
アヘン中毒になったコクトーを療養させて立ち直らせたのはココ・シャネルだが、
たびたび彼が見た若い男の姿の天使の「ウルトビーズ」
幻視的な芸術の魔術に囚われる。
サン=ジュストなどを思いつつ、、、夏。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2005年6月2日
読了日 : -
本棚登録日 : 2005年6月2日

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