現代思想専門だった東浩紀だけにポストモダンの行方をシミュラークル、データベースという切り口でオタク文化を分析するその手腕はまさにオタクたちの待っていた人だろう。
オタクのコミュニケーションが自発的なものであり、いつでも離脱可能だという指摘は現在のネット社会を予見していてさすが東浩紀だと舌を捲かざるを得ない。
新世紀エヴァンゲリオンという無限にシミュラークルを作りだす装置のからくりをいま読み返してみて2001年の段階で看破していたことも彼が白眉である証拠だろう。
しかし第三章においての解離性人格障害をシミュラークルとデータベースで説明するというのはあまりに稚拙すぎる。
この章はなくてもよかっただろうと思う。
現在の東の活動はオタク文化分析のフィールドからかなり離れてしまったしおそらくもうそれほどオタクという現象に魅力を感じなくなっているのだろう。
確かに東の分析から現在のオタク文化が進展して考察するに値するものであるとは思えない。
これから本書を読む人は2013年の時点においてはそれほど目新しいことは書いていないことを自覚しつつ再確認するという程度にとどめておくべきであろう。
現代思想という言葉が風化しつつある現代日本においてはもはや本書は役割を終えた感はあるがここから西欧のポストモダニズムへの興味が少しでも湧いてくるならばそれだけで本書を読んだ価値はあるかもしれない。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
批評
- 感想投稿日 : 2013年9月2日
- 読了日 : 2013年9月2日
- 本棚登録日 : 2013年9月2日
みんなの感想をみる