文と更紗、2人にしかわからない、言葉にならない関係が切なく、苦しく、美しく、そして愛おしく感じさせる物語。
「好き」なんて言葉に形容できない人に出会った時、(猟奇じみてるかもしれないが)とにかく名前で検索してしまう、その人の住む町を調べてしまう、出会えるかと思って彷徨ってしまう。「恋」ではないが、そんなことをしたい衝動に駆られる経験をしたことがある人も少なくないのでは?(実際に行動に起こすかどうかは別にして。いや、私だけか...?)
そんな更紗の想いがあまりにもリアルに描写されているもんだから、あっという間に物語に引き込まれてしまった。
そして、物語の中でははっきりとした病名は描かれていなかったが、クラインフェルター症候群であろう病気に長年苛まれる佐伯文。彼の持つミステリアスな雰囲気がこの物語をより一層魅力的にさせていたのは間違いない。架空の人物なのに、もっともっと彼を知りたいと思ってしまった。
マイノリティが受け入れられやすくなった近年ではあるが、他人に言えない性の悩みを抱える人は想像以上に多い。
そんな人たちが少しでも幸せに過ごせる世界になって欲しい、そんな想いが強くなる一冊だった。
こんな救いのない世の中だけれども、どうか物語の世界では文と更紗が幸せに過ごし続けられますように。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2020年6月9日
- 読了日 : 2020年6月9日
- 本棚登録日 : 2020年6月9日
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