ネット大国中国――言論をめぐる攻防 (岩波新書)

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  • 岩波書店 (2011年4月21日発売)
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2011年の「中国インターネット情報センター」の発表により、中国のネット利用者、すなわち網民の数が4億5700万に達したという。ネットで自由に自分の意見を表明する網民の急増とともに、ネット言論ならではの影響力が中国社会に大きな波紋を起こし始める。本書は、中国のネット上における言論自由のあり方、ネット検閲の実態を分析する上で、網民たちと政府との間でネット世論誘導の主導権争いを描いた本である。

中国における網民の大半を占めるのが、80年代以降インターネットの普及という背景で、様々な種類の膨大な情報の中で育て上げた「80后・90后」と呼ばれる若者たちである。バラエティに富んだ価値観を持つ彼らは、愛国主義教育によりナショナリスティックな感情を持っていると言っても、決して政府の言う通りは行動しない傾向があり、まさにボトムアップ的精神性を持った群像なのである。

権利意識に目覚め、役人の腐敗や社会矛盾には非常に敏感な若者たちは、言論統制が厳然として存在する中国においても、ネット検閲の眼をかいくぐり、ネットで社会への不満や批判などを頻繁に書き込み、憲法条文に触れないぎりぎりのラインで言論活動を展開している。本書では、ネットユーザー達の怒りの告発により腐敗した役人達の罪が暴かれ、それが激しい抗議活動を引き起こして役人達が破滅したなどの事例がコンパクトかつ丁寧に紹介されている。

しかし、中国政府はボトムアップ型の言論を必死に制御しようとしている。なぜかというと、「四億五千万人の網民が共鳴し、政府に『反旗』を翻しでもしたら、政府転覆につながりかねない」からである。そのため、政府が敏感な政治内容や有害キーワードなどを検知しフィルタリングするシステムを構築し、偽の意見領袖を通じて政府に有利な偽のネット世論を形成しようとしている。

本書を通して、中国における言論統制やインターネット規制のあり方が分かり、「ネット上言論の自由を保障する」と表明している中国政府が、中国のネット世論を暗室で操作されていた舞台裏も垣間見える。中国のインターネット実態と言論の民主化に関連する良質の入門書であると思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会文化
感想投稿日 : 2014年6月30日
読了日 : 2015年3月27日
本棚登録日 : 2015年5月11日

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