中国経済 あやうい本質 (集英社新書)

著者 :
  • 集英社 (2012年3月16日発売)
2.93
  • (1)
  • (3)
  • (21)
  • (3)
  • (2)
本棚登録 : 102
感想 : 15
5

上海にはカラスがいない。ある知人から頂戴したお便りに、そう書かれていた。何故なら、夜明け前に貧しき人々が全ての残飯を持ち去ってしまうからそうだ。この情報は、筆者にとって大いに刺激的だった。
筆者は中国が「20世紀的な国民国家の確立を進める一方で、21世紀的なグローバル・ジャングルのルールにも順応していかなければならない。ここに、まさしく、今日の中国の危うい本質がある」と説明している。
ここでいう「20世紀的な国民国家の確立」とは「公共事業が繁栄と直結する経済」。リーマンショック後の中国の経済政策に見られるように、すでにインフラ整備が一通り完了している日本と異なり、国が公共投資にお金を出せば、十分に景気が浮揚する経済だ。しかし、一方で、古い20世紀的な国家の舵取りとは別に、21世紀のヒト・モノ・カネが自由に動き回るグローバル・ジャングルを生き抜く政策が求められる。この二つの経済の舵取りを同時に行わなければならないところに危うさがあると指摘されている。
グローバル・ジャングルの経済力学は、個々の個別事情や特異を踏み越えて、世界に及んでいく。ヒト・モノ・カネは容易に国境を越えて、一箇所に滞留しない時代においては、特定の国が抜きん出て優位に立つということはありえない。その中で、中国経済もまたバブル化警戒し、デフレの影に怯え、金融調整に四苦八苦し、財政状況の制御に苦慮している。
現在の中国に見る危うさは、中国という国が特殊な国だからではなく、その普遍性からくるものだ。巨大な人口を有する中国現在のグローバル経済の下では、一人勝ちは難しいと著者が指摘している。
また、以下のように重要な点が指摘されている。
中国は「世界工場」と呼ばれるが、その大半は非中国資本の持ち物であり、資本と立地が分離している。この点をしっかり認識しておくことは非常に重要だ。
中国は「モグラたたきゲーム」のような経済運営を迫られている。
果たして、中国は危うい経済をどうすればよいのか。
ズバリを言うと、人民元の引き上げしかない。人民元高が進めば、輸入物が下がり、インフレ鎮静効果が期待でき、物価が落ち着けば、金利を上げなくて済む。しかし、あまり、急ピッチで人民元高が進行すると、中国から外資の大量脱出始まるなどの問題が発生する。中国経済の運営は簡単ではない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 経済・ビジネス
感想投稿日 : 2015年5月19日
読了日 : 2015年4月9日
本棚登録日 : 2015年5月19日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする