憧れのハワイ: 日本人のハワイ観

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  • 中央公論新社 (2011年2月1日発売)
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感想 : 6

ハワイは日本人にとってかつては出稼ぎの地であり、はじめて出会うアメリカであり、終始一貫して理想の楽園であり続けている。戦時中はアメリカ合衆国支配より解放すべき島とされ、真珠湾攻撃のメルクマールとなったキーワードの土地であり、海外渡航が禁止されていた戦後まもないころは再び高嶺の花としてのイメージが膨れ上がり「憧れのハワイ航路」と歌いあげた。本書は戦前戦後の両国の関係史をたどっていくが、戦後のハワイ観光ブーム以降については著者専門の「観光学」切り口のスパイスががぜん効いてくる。ハネムーンから団体旅行、日本資本の観光産業進出の空前のハワイブームの舞台裏で、先住民たちは楽園イメージ演出の出演者にすぎず、経済成長から取り残されてきたとの現実をあぶりだす。9.11やリーマンショック後の旅行客減少、誰もかれもハワイをめざすのではなく、「はまった」リピーターが行く場所となった現在は、一見「ロコ」「フラ」「エコ」「癒し」へのニーズにハワイ先住民文化への敬意と興味がみられるが、それもまたハワイ文化に新たな「非近代社会」としての「他者」視線という疎外を与えていな�いかと指摘。しかしそれを認識したうえで、文化理解をしていくことが重要と述べる。もっともだ。
わたしはこの本をハワイ旅行の帰途に読んだ。旅行中漠然と感じた印象の「解」を読むようなおもしろさ。ワイキキの、まるで、租界地区のような隔絶感と新宿副都心のような人工感。そこには地域住民の家はない。周辺地区からワイキキへの出勤のための高速道路大渋滞。そこに舞台裏の労働者たちの日々の現実が集積している。アメリカ軍の、アメリカの想いがつまった真珠湾攻撃で沈んだ戦艦の兵士たちの慰霊碑。一方、先住民の苦悩の歴史をとどめる、旧王族がアメリカにより退位された記憶が生々しいイオラニ宮殿と、民族の歴史を誇らしく展示するビショップ博物館。真珠湾やビショップ博物館では日本人の団体ツアーバスは見かけなかった。考えてみれば、ハワイが、日本人がリゾートとして滞在してなんの「居心地の悪さ」を感じないのは、真珠湾地区をのぞいては日本軍が激戦した跡地がない…占領したこともない…これはグアムやサイパン、フィリピンそのほかのアジアの国々を訪れたときとは大違いである…からではないだろうか。
もちろんハワイには掛け値なく魅力的な文化がある。わたしが心ひかれたのは「ことばと一体化した踊りであるフラ」「ハワイの神話」惹かれた理由は、著者が指摘するようにそれらが自分とは異質の前近代、他者、「憧れ」だからではなく、その逆。自分の中にあるものであり、親和性を感じ、「自然」だから。じつはこのような形で「はまっている」ひとは、多いのでは?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 観光
感想投稿日 : 2020年4月23日
読了日 : 2012年8月26日
本棚登録日 : 2020年4月23日

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