嘘をついてはいけないよ。
幼い頃に、大人は子供にそう教える。
なんで、と子供は聞く。
大人は答える。
一つ嘘をつくと、その嘘を保つためにもっとたくさんの嘘をつかなければならなくなる。
そしてもうどうしようもなくなった時に、嘘は自分自身を苦しめてしまうからだよ。
しかし成長するにしたがって、子供は嘘をつくことを仕方ないと思うようになってくる。
嘘をつかなければ生きていけないのだ、ということを学ぶ。
確かにそれも人生の、また、社会の一つの真実だが、あの日大人が言った言葉にも嘘はなかった。
小さな嘘が降り積もった時、そこに見えるのはどんな景色だろうか。
智子に友彦は強く惹かれていた。
シロアリ駆除のために潜り込んだ家の床下で、彼女の喘ぎ声を聞き、彼は猛烈に興奮していた。
いけないことだ、そう思いつつも彼は離れられなかった。
サヨに友彦は惹かれていた。
しかし彼女は死んだ。
それを自分のせいだと友彦は思い込んでいる。
何が原因だったのか。
かわいそうだったから。きっと、それのせいだ。
このことを友彦はずっと抱えてきた。
その重みは年々増え、自分の力では支えきれなくなってきた。
手放したい、誰かに押し付けてしまいたい、そんな気持ちが悲劇を生んだ。
小さな嘘が、小さな思い込みが、小さな優しさが、人生をゆっくり狂わせる。
いや、実は、そもそも狂ってなどいなかったのかもしれない。
狂い始めた、と思っているのは当事者たちだけで、本当は何もかも正しかったのかもしれない。
その正しさが自分が思い描いていた方向とは少しずれていただけだったのかもしれない。
吐き出すこともできず、消化していくしかない、友彦も乙太郎も、智子もナオもそう思っているけれど、吐き出したものは何度でも蘇ってくる。
消化することでしか解決できないこともあるのだ。
涙など、ウワバミは流さない。
だからウワバミなのだと傍観者である私は思わざるをえない。
- 感想投稿日 : 2015年10月25日
- 読了日 : 2015年10月25日
- 本棚登録日 : 2015年10月25日
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