夜が暗いとはかぎらない

著者 :
  • ポプラ社 (2019年4月11日発売)
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本棚登録 : 2028
感想 : 190
5

暁町で暮らす人々の群像劇。
◆目次
1.朝が明るいとはかぎらない
・リヴァプール、夜明けまえ
・蝶を放つ
・けむり
・赤い魚逃げた
・声の色
・ひなぎく
・滅した王国
・はこぶね
2.昼の月
・グラニュー糖はきらきらひかる
・青いハワイ
・バビルサの船出
・生きる私たちのためのスープ
3.夜が暗いとはかぎらない

◆あらすじ
職場の上司からの陰湿ないじめにあい、対人恐怖ぎみの息子と、そんな息子を心配する母。
子供の成長のスピードに不安を覚える主婦、それを見守る義母。
過去の友人関係で心に負った傷を引きずる女性。
母親の愛情が偏る姉妹、それぞれの苦悩。
友人の自殺を止められなかった男性…。

結婚生活、子育て、友人関係、職場の対人関係…
いろいろな柵に疲れ、傷ついた人々のストーリーに、ちらりと映り込む、マスコットキャラクターあかつきんが何ともいえない癒しと励ましを与えてくれる。

◆感想
(特に好きだった章とフレーズ)
・蝶を放つ(同僚)
p56
「遠くへでも、どこへでも、ひとりでも、好きなところに飛んでいけますようにっていうおまじない」
葉山さんがこわごわと翅を動かし、ふわりと空に浮く姿を想像してみた。鱗粉がきらきと、足元に零れ落ちる。遠くに行きたい葉山さん。でも「誰かと」である必要は、ないんじゃないのか。
ひとりで飛ぶのは、怖いかもしれない。 風に乗るのは、きっと心細いだろう。 空の大きさに身体が竦むかもしれない。けれども自分の翅で飛び立った空から見下ろす景色はきっと美しい。

・滅した王国(旧友)
p164
同じ色で塗れない。
あの時はなにも言い返すことができなかったけれども、今ならきっと、「そうだよ」と答える。だって人間は、タイプ別に色を塗り分けられるような単純なものじゃないから。
一色で塗りつぶせるような単純な人間なんかいない。 澄んだ色、濁った色、やさしい色、きっぱりとした色。 あらゆる色が、ひとりの人間のなかに存在しているのだ。
「この人はこういう人」と簡単に色分けできると思いこんでいた私たちは世間知らずで、傲慢だった。 王国が消滅したのは、あたりまえのことだった。

・はこぶね(叔母と姪※千ちゃんとみれ)
p190
「そう。 みれの未来も、心も身体も時間も全部、自分のもの。他人の期待に応えるために生まれてきたわけやない。他人に渡したらあかん」
「いい子」になんてならなくていいんじゃよ。またおじいちゃんが降りてきてしまったらしい千ちゃんの手を、ぎゅっと握る。
「わたしの人生はわたしのもの。胸をはってみれがそう言えるんやったら、もうそれだけでじゅうぶん。それ以外のことはたぶんあとからついてくるから、だいじょうぶ」

・グラニュー糖はきらきらひかる(嫁姑)
p215
すごろくに似ている、と思っていた。この世に生まれ出たら最後、さいころをふり続けて前に進まなくてはならない。だけど、このすごろくにはあがりがない。いつまでも、いつまでも、誰かになにかを言われ続けることには、終わりがない。みんな、際限なくいろんなことを言う。悪気なく。そう。悪気はないのだ、みんな。

・バビルサの船出(孫と祖父)
p263
ばあちゃんが死んだ時、じいちゃんはぜんぜん泣かなかった。生きとるあいだに、じゅうぶん大事にした。そんなふうに言った。生きているあいだに誰かをじゅうぶん大事にしたと、だから別れはつらくないと、そんなふうに言える人はすくないと思う。そこまでの覚悟を持って誰かに接している人なんて、めったにいないんじゃないか。

・生きる私たちのためのスープ
p276
夜中に何度も目を覚ます夫は、孤独だろうか。私を起こさないように気を遣っているのか、こっそり寝室を出ていくこともある。一度「眠れない?」と声をかけたら異様に恐縮して何度も謝ってきたので、それ以後は気づかないふりをしていた。
のんきな妻、という役をやっている。わりと、必死で。必死であることに気づかれまいと、また必死で。

群像劇なのでスラスラ読める上に、ハートフルな読後感を味わえる素敵な作品。おすすめです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(ヒューマン)
感想投稿日 : 2024年3月10日
読了日 : 2024年3月4日
本棚登録日 : 2024年2月27日

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