心の進化を解明する ―バクテリアからバッハへ―

  • 青土社 (2018年6月25日発売)
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感想 : 10

人間がなぜ他の生物と異なり,高度な知性,すなわち理解力とデザイン力を獲得するに至ったかを,主に進化生物学の視点で概観した大著.著者の専門は哲学で,内容として難解な部分もあるが,話の基盤となる進化生物学に加えて,計算機科学などの知見も交えて,知的好奇心をくすぐる内容になっている.20世紀後半以来の計算機科学の目覚ましい発展によって,機構全体を構成する個々の要素は単純極まるものでありながらも,それが組み合わさることにより,高度な処理を行えることが示され,これは進化論における大きな間隙であった,設計者なき世界で知性の発達が可能か否かの議論にも影響を与えた.しかし実際のところ脳は個々のニューロンそれ自体が生物として,自身の適応を第一として活動するものの総体というボトムアップ型の組織である一方,コンピュータはすべての構成部品が画一的で,上からの統制により全てが制御されるトップダウン型の組織である.著者の考えるところでは,脳それ自体はヒトの進化の初期には今日のような理解力を獲得していなかったが,言語の登場によりミームがヒトの脳を媒介として,結果ヒトとミームの共進化が進んで,ヒトが自省能力や,他者との適応的戦略の共有能力を獲得し,ダーウィン的な進化のスピードが飛躍的に向上して,今日あるトップダウン的理解力に達したとする.本書ではヒトの高度な知性の唯一性を主張しているが,一連の主張はどちらかというとヒト以外の生物に見られる,「賢い」挙動に対して,当事者の理解力や知性を帰属させる試みを戒め,それらが「理解力なき有能性」により獲得されたものと説明できることを,むしろ事あるごとに強調している.同時に,ここまでは知性・意識でそこから先はそうでない,といった線引きが,実際の進化過程が漸進的なものであることから,ナンセンスであることも,併せて強調されている.全体として非常に興味深かったが,結局なぜ人間だけが言語を獲得できたかという部分に関しての理解は今ひとつ進まず.ミームや進化に関する別の本を読んでからもう一度読み直したい.最後に,訳や注が非常に丁寧なのは良かった.和訳というより,原著を注釈つきで読んでいるような感覚で,内容の理解が進んだ.

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文庫・新書・単行本 - 自然科学
感想投稿日 : 2019年1月7日
読了日 : 2018年12月31日
本棚登録日 : 2018年10月19日

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