簡素な生き方

  • 講談社 (2017年2月15日発売)
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感想 : 10

【生き方】簡素な生き方 /シャルル=ヴァグネル/20170510/(43/639) <255/76631>
◆きっかけ
・タイトルに惹かれて

◆感想
・1895年に書かれて欧米でミリオンセラーになった名著。タイポではない、「1895年」。
もともとは、結婚式でシャルル・ヴァグネルのスピーチを聞いた編集者が、頼み込み、スピーチの内容を増強して書籍にしたとのこと。
それが100年以上経ってもなお、しかも日本においてすら読まれており、100年以上前に書かれたとは思えないほど現代的な意味を持った本。
・全体としては、理想的というかきれいごとすぎる面も否めない。ただ、時代がどうであれ、人間は同じようなことで悩み続けているのだなと感じた。

◆引用
・お金があるほど、必要なものが増える。欲求こそ満足感のハードルを高くする。
・欲に仕えていると、欲はどんどん大きくなり、いずれ自分の手に負えなくなる。欲求の奴隷になっていないか。
・自由とは「心の掟」に従うこと。簡素になるとは、自分の望みや行動を自分の心の掟と一致させること。
・人はパンによってではなく、自信によって生きる
・自信をもって生きれば、希望とともに生きられる。希望とは、自信が未来に向けられたときの形。
・情報が多いほど分かり合えなくなる。新聞を読むほど謎が深まる
・信頼とは、人間が生きていくための資本。
・最も偉大なことは、簡素に述べられていることで最大の価値を発揮する。美辞麗句は不要。
・恐ろしいときこそ、ほんのちょっとした行動が暗闇のなかの光になるかもしれない。
・犯人捜しより問題解決を優先する
・不満を言う人は、満ち足りている証拠
・不要な贅沢で心が鈍る
・永遠になにも生まれてこない砂粒のような仕事か、地面に蒔かれた種のような仕事か。
・いちばん美しいのは自分らしい装い
・衣も、食も、住も、気晴らしも、なるべく複雑でなく自然なものを
・教育は自由な人間を作るべき。そのためには簡素に育てよ。
 ぜいたくなおもちゃ、お祭り騒ぎ、凝った楽しみが多いほど、愉しい思いが少なくなる
・喧噪の世間を離れ、谷間に行くと、いかに小川が澄み、森がひそやかで、
 孤独が愉しいかを知って驚く
・富をどう所有するかを学ぶ
・人への命令は自分への命令(シンプルに命令する人は、いざとなったら自らなんでも行う準備ができており、それを誰も感じる)
・知識も権力も預かりものと見なす(人間の所有するものはすべて誰かのおかげ)
・教育とは、自由でありながら尊敬の念を抱き、自分自身でありながら同胞への愛ももっている人間を作ること
・身の丈にあわない贅沢をさせない
・子供を自由な人間に育てたいなら、シンプルに育てる。贅沢なおもちゃやパーティーや洗練された楽しみを与ええるほど、子供は楽しめなくなる。控え目にすること。
・子供達を簡素に、厳しく育てる。逞しく鍛え、ときには少し不自由を感じさせる。あまりに安易な生活は、生命力に一種の倦怠感をもたらす。
・過去においてだけでなく、毎日の生活においても、何が忘れなければならないことで、何が覚えておかなければならないことかを知っていることが大切。

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ブック紹介

『簡素な生き方』
 シャルル・ヴァグネル 著
 山本 知子 訳
 講談社
 2017/02 256p 1,400円(税別)
 原書:La vie simple(1895)

 1.複雑な生き方 La vie compliquee
 2.簡素な精神 L'esprit de simplicite
 3.簡素な考え方 La pensee simple
 4.簡素な言葉 La parole simple
 5.単純な義務 Le devoir simple
 6.簡素な欲求 Les besoins simple
 7.簡素な楽しみ Le plaisir simple
 8.お金と簡素 L'esprit mercenaire et la simplicite
 9.名声と簡素 La reclame et le bien ignore
 10.簡素な家庭 Mondanite et vie d'interieur
 11.簡素な美しさ La beaute simple
 12.簡素な社会 L'orgueil et la simplicite dans les rapports sociau
 13.簡素のための教育 L'education pour la simplicite

【要旨】私たちを取り巻く環境、世界が以前にも増して複雑化しているのは、
誰の目からも明らかだろう。膨大な情報、多様な価値観が入り乱れ、変化も
激しい現代社会で、本来の「人間らしさ」を取り戻すのは困難のようにみえ
る。日本で「断捨離」がブームになっているのに、そうした背景があるのは
確かだろう。本書は、1895年にフランスで刊行され、欧米でミリオンセラー
となった「La vie simple」の邦訳。当時の欧米では、産業革命後の工業化に
より、社会全体としては豊かになる一方で、貧富の差が広がりつつあった。
現代と似たところもある激動の時代にあって著者は、人間らしさとは「簡素
な生き方」「簡素な精神」にあるとし、物質的な豊かさやそれに伴う虚栄心
や権威欲、傲慢さや野心などにとらわれない「善き人間」になるための考え
方を説いている。著者のシャルル・ヴァグネル(1852-1918)はフランスの教
育家、宗教家で、近代フランス初等教育を宗教から独立させ、無月謝の義務
教育として確立させた功績でも知られる。
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●絵画の「額」ばかりを磨いていてはいけない

 ゆりかごから墓場まで、現代人ははてしない複雑さにがんじがらめになっ
ています。複雑な欲求、複雑な楽しみ、世界や自分自身のとらえ方も複雑で
す。考えたり、行動したり、楽しんだりすることも、そして死ぬことさえ、
もはや複雑でないことなど何ひとつありません。私たちは自らの手で人生を
複雑な問題だらけにして、楽しみを取り去ってしまったのです。

 いまや世界じゅうで、「お金があればあるほど必要なものも増えていく」
という現象が起きています。「何を食べよう? 何を飲もう? 何を着よう?」。
そんなふうに考えるのは、貧しくて明日の食べ物や住まいに不安を抱えてい
る人だけだと思うのは大間違いです。

 自分が持っているものに対する満足感は、持っていないものへの執着によっ
て驚くほどかき乱されます。ドレスを一着しか持っていなければ、「明日何
を着よう?」と迷うことはないでしょう。必要最低限の食べ物しか手元にな
ければ、明日の献立に悩みません。つまり、欲求こそが満足感のハードルを
高くするという法則が成り立つのです。

 私たちは、社会の進歩を妨げる誤りに光を当てて、改善策を見つけなけれ
ばなりません。その誤りとは、「人間はうわべの充足感が増せばより幸せに
なり、より善き者となる」という考え方です。

 人間は、物質的な豊かさが増せば増すほど、幸福になる能力が低くなり品
位も落ちていくことが、数々の例によって証明されています。文明の価値は、
その中心にいる人間の価値で決まるものです。人間が道徳の方向性を失うと、
どんな進歩も私たちの間に蔓延している病を悪化させるだけとなり、社会的
な問題をいっそう複雑にしてしまいます。

 掟というと、まずは人間同士、つまり外的な掟が思い浮かびますが、それ
はまた、一人ひとりの内面の掟にもなります。自分の心のなかの掟を自覚し
て大切にする人は、その掟にしたがいます。すると、自由に生きるのにふさ
わしい存在となります。自分の心の掟に導かれると、もはや権威を振りかざ
した外的な掟のもとでは生きられなくなります。

 自由、それは心のなかの掟にしたがうことです。ただし、意味がある自由、
価値のある自由でなければなりません。そうでないと人間は社会生活を送る
ことができず、規律がないためにわがまま放題になり、国全体が衆愚政治の
カオスに陥ってしまうでしょう。

 私たちの生活を混乱させ複雑にする要因の一つひとつに名前を付けて並べ
たら、さぞや長いリストになるでしょう。しかし、すべてはたったひとつの
原因に集約できます。それは、「本質的なものと余計なものが入り混じって
いる」ことです。充足感も教育も自由も、すなわち「文明」と呼ばれるもの
はすべて、絵画を飾る額のようなものです。額が絵画をつくるわけではあり
ません。ここで言う「絵画」とは、意識や性格や意志をもった人間を意味し
ます。

 額を手入れしてきれいにしている間は、ついつい絵のことを忘れ、絵をな
いがしろにして、ときには傷めてしまいます。だからこそ表面的には豊かで
あっても、精神生活はみじめなのです。自分の上にあまり意味のないものば
かりが降り注ぎ、それが積もり積もって、ついには空気と光を奪われて窒息
してしまうのです。

 良いランプとはどんなものでしょうか? それは、豪華な飾りのあるラン
プでも、手のこんだ彫刻が施されたランプでも、高価な金属でできたランプ
でもありません。良いランプとは、明るく照らすランプです。同じように、
財の大きさや楽しみの数、芸術的教養や名誉や自立性といったものが、善き
人間をつくるわけではありません。精神的な強さが人間をつくるのです。


●望みや行動を自分の心の掟と一致させることで簡素になれる

 簡素と簡素に見える状態は同じではないのです。たとえば、道で三人の男
に出会ったとします。ひとりは車に乗っていて、ひとりは靴を履いていて、
ひとりは裸足です。「このなかでいちばん簡素に生きている人は誰か?」

 答えは、必ずしも裸足の男とは限りません。車に乗っている人は最も贅沢
な状況にいながら簡素であり、富を持っていても富の奴隷ではないかもしれ
ません。同じように、靴を履いている人は車に乗っている人をうらやましい
と思わず、裸足の人を軽蔑しないかもしれません。さらに、ぼろをまとって
足がほこりまみれでも、裸足の人は簡素な生き方や仕事や節度を憎み、楽な
暮らしと享楽と無為だけを夢見ているかもしれません。

 身なりだけではなく、その人の心を見ないかぎり、何もわからないものな
のです。どんなライフスタイルでも、どんな社会的地位でも、身分が低かろ
うが高かろうが、簡素な人とそうでない人がいます。

 簡素とは、私たちの行動の動機となる意志のなかに存在します。自分があ
るべき姿になろうとしているとき、つまり、まぎれもなく人間でありたいと
考えているとき、その人は簡素です。簡素になるとは、自分の望みや行動を
自分の心の掟と一致させることです。

 どんな社会的状況であれ、生まれつきの才能がどうであれ、誰でも真の生
き方を実現することができます。人生の価値をつくりだすのは個人的な特権
や財産ではなく、「そこから何が引きだされるのか」が大切なのです。

 混沌から始まり、試行錯誤しながら自分自身を探し求め、しかもしばしば
間違いを犯します。それでも必死に歩み、自分の行動を真摯に見直すことに
よって、人生をよりはっきりと理解できるようになります。そこにあるもの
こそ、掟なのです。「自分の使命を果たす」という掟です。この掟以外のこ
とに心を奪われると、私たちは自分自身の存在理由を失います。エゴイスト、
享楽主義者、野心家になってしまいます。

 私たちは、実り多く簡素で、しかも人間の生涯に適した考え方をもつため
の最良の方法を探しています。その方法はこのひと言に集約されます。「自
信をもち、希望をもち、善良であれ」


●権威を行使する者はすべての人の頭上にある掟に従うべき

 権力を行使する者の第一の義務は「謙虚である」ことも、あまりに忘れら
れています。尊大になることが権威ではありません。掟をつくることも権威
者の仕事ではありません。掟はすべての人の頭上にあるもので、権威者はそ
れを解釈する役割を果たすにすぎません。その掟の価値を他の人に知らしめ
るには、まずは権威者がその掟にしたがわなければなりません。

 人間の労働には、貨幣では評価できない要素があります。仕事をしてその
報酬を受け取れるなら、それに越したことはありません。けれども、その労
働をしている間、報酬のことしか頭にないのなら最悪です。報酬のためだけ
に働く人はたいした仕事はできません。お金儲けしか頭にない医者に、命は
預けられません。子どもの教育者として、お金しか愛せないのは悪い教師で
す。お金目当てのジャーナリストにどんな価値があるでしょう? 人間の高
邁な本質にかかわる仕事であればあるほど、金儲け精神が入りこむと、その
仕事は不毛で腐ったものになるのです。

 二人の男が同じ力や同じ身体の動きで同じ仕事にとりかかっても、結果は
違うものになります。片方の男は金儲け精神をもち、もう一人の男は簡素な
魂をもっています。二人とも報酬を受け取りますが、前者の仕事は、そこか
ら永遠に何も生まれてこない砂粒のようなものです。後者の仕事は地面に蒔
かれた種のようなもので、やがて芽が出て収穫物を生みだします。

コメント: 何か行動を起こす時や判断を下す際に、常に「本質はどこにあ
るのか」を考えるクセをつけることが、「簡素な生き方」を実践する最大の
コツなのではないか。どんな時も「自分は額(がく)にばかりとらわれて肝
心の絵画をおろそかにしていないか」「ランプの装飾に気を取られてどうやっ
て明るく光らせるかを考えるのを忘れていないか」など、本書のたとえを思
い出しながら自問自答してみてはどうだろうか。また、本書では「掟」と表
現されているものは「思考の軸」と言い換えられるだろう。自分の中に軸が
あれば、情報過多で混乱しがちな思考を整理し「簡素」にできる。軸からど
のくらい離れているかを見定めることで、シンプルに冷静な判断ができるの
ではないだろうか。

===unqte===

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 生き方
感想投稿日 : 2017年3月26日
読了日 : 2017年5月10日
本棚登録日 : 2017年3月26日

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