食の歴史

  • プレジデント社 (2020年2月27日発売)
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農林中央金庫理事長 奥和登氏
人の未来へ思いはせる
2023/6/17付日本経済新聞 朝刊
大分県の山村で育った。


子どものころは魚釣りなど自然の中で遊んでいました。活字への関心は薄く、父の本棚に「レーニン全集」などもありましたが、装飾品のたぐいぐらいにしか思っていませんでした。

大学受験で浪人していたころ、予備校の講師が授業そっちのけで中原中也やランボーの詩を読み上げ、ギリシャ神話や太宰治について熱っぽく語っていました。「こういう世界があるのか」と刺激を受け、自分でも読んでみました。浪人時代の微妙な心理の影響があったのかもしれません。

本当の意味で読書に親しむようになったのは就職した後、30~40代のころのことです。職場まで電車で往復3時間半、主に山崎豊子や司馬遼太郎、池波正太郎の小説を読みました。いったん気に入ると、その人の作品をたくさん読み進める読書スタイルです。

とくに印象に残っている作品の一つつが山崎豊子の『沈まぬ太陽』です。どんなことがあっても負けず、自分の信念を貫き通す。ちょうど自分が管理職になった時期で、大いに励まされました。仕事が難しくなるほど信念を崩さず、心を強く持たなければならないと自分に言い聞かせました。

東日本大震災が起きたとき、復興対策の担当役員になった。

震災の後、被災地の暮らしと農業をいかに再開するかが大きな課題になりました。そのとき改めて勉強したいと思ったのが、江戸時代後期に荒廃した農村の復興に取り組んだ二宮尊徳です。関連書をいろいろ探し、読んでみたのが『怠れば、廃る』です。著者の八幡正則さんはJAグループの県組織に勤め、破綻したある地域農協の処理に尽力した人です。

協同組合運動には様々な理念がありますが、この本を読んで再確認したのは現場での実践が大切だという点です。組合員が何に困っているのかを徹底して聞く。絶対に東京の机の上だけで考えてはいけない。そう自分を戒めました。福島と宮城、岩手の各県に週2日のペースで通い続けました。

理事長になる前の3カ月間は、明確な目的をもって読書をしました。様々な知識をもとに懸案に対処しなければならないのは当然ですが、もっと必要だと思ったのは心の状態を整えることです。すべての責任が自分にかかってくると考えると、いかに平常心を保つかが重要だと思ったのです。


そのころ読んだのが、ニクソン元米大統領の『指導者とは』です。ウォーターゲート事件のイメージぐらいしかなかったのですが、チャーチルや吉田茂など各国の指導者のどこが優れているのかが紹介されていて、引き込まれました。「ビジョンを持って周囲を納得させ、人々を動かす」というメッセージが心に響きました。

こうしてふり返ってみると、何か仕事のヒントにならないかと思い、どこかで関連する分野の本を読んできたように思います。それが書物へのアプローチの仕方の中心でした。

新型コロナウイルスで以前とは違う本も読むようになった。

コロナで会食の機会がなくなり、読書にあてることができる時間がぐっと増えました。「世の中はこの先どうなるんだろう」と考えても、答えはなかなか見つかりません。そうした中で読んでみたのがユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』です。

どうしてホモサピエンスは食物連鎖の頂点に立つことができたのか。そんなテーマについて、著者一流の切り口で整理してくれています。非常に刺激を受け、『ホモ・デウス』や『21Lessons』へと読み進めました。私にとって現在進行形の読書でいろいろなことを考えさせられます。

これをきっかけに手塚治虫の『火の鳥』シリーズも電子書籍で読み直してみました。高校時代から好きな作品ですが、改めて読むと「自分の知らないことはこんなにたくさんあるのか」と気づきます。物語の表面的な部分ではなく、哲学的な視点や宇宙観に驚かされます。

コロナでデジタル社会の行方や人類の未来に思いをはせるようになり、読書の楽しさが増えました。

(聞き手は編集委員 吉田忠則)

【私の読書遍歴】

《座右の書》

『サピエンス全史(上・下)』(ユヴァル・ノア・ハラリ著、柴田裕之訳、河出書房新社)

《その他愛読書など》
(1)『火の鳥』(手塚治虫著、手塚プロダクション、全16巻、電子書籍)
(2)『沈まぬ太陽』(山崎豊子著、新潮文庫、全5巻)
(3)『怠れば、廃る――二宮尊徳に学ぶ協同の魂と幸せの条件』(八幡正則著、22世紀アート)
(4)『指導者とは』(リチャード・ニクソン著、徳岡孝夫訳、文春学芸ライブラリー)
(5)『貞観政要』(呉兢著、道添進編訳、日本能率協会マネジメントセンター)。リーダーには厳しいことを言ってくれる人が周囲にいることが重要だと学んだ。
(6)『天佑なり(上・下)』(幸田真音著、角川文庫)。財政問題に信念を持って取り組んだ高橋是清の物語。
(7)『食の歴史』(ジャック・アタリ著、林昌宏訳、プレジデント社)。食に関する本は手当たり次第に読んできた。
おく・かずと 1983年東京大学農学部卒、農林中央金庫へ。リーマン・ショック時の危機対応や東日本大震災の復興などを担当し、2018年から理事長。

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https://www.maff.go.jp/primaff/kanko/review/attach/pdf/220325_pr106_05.pdf

読書状況:読みたい 公開設定:公開
カテゴリ: 読書・勉強
感想投稿日 : 2023年6月18日
本棚登録日 : 2023年6月18日

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