日本経済新聞社
小サイズに変更
中サイズに変更
大サイズに変更
印刷
経済は、人類を幸せにできるのか? ダニエル・コーエン著 競争と協力のバランス説く
2015/11/22付日本経済新聞 朝刊
フランスを代表する経済学者が幸福について考察している。幸福は感情の問題であり、定量化や測定にはなじまない。しかし、金融危機後の世界において、経済学が有用な学問であり続けるためには、幸福の問題を避けて通るわけにはいかない。そんな危機感が本書を貫く。
金融危機の前に幅をきかせていた経済学は、合理性に基づいて、個人主義的に行動する人間像を前提に組み立てられることが多かった。すなわち「ホモ・エコノミクス」(経済人)である。
彼らは「ホモ・エシックス」(道徳・倫理的人間)や「ホモ・エンパシス」(共感的人間)との競争に勝ち抜いたと思い込んでいる。だが、幸福や人間性の問題を封じ込めたがゆえに最終的に自らも非効率となり、衰退の道を歩むことになる。
衰えゆく経済人に対して、著者は必ずしも具体的な解決を示しているわけではない。まずは「競争だけで未来を築けると考えるのは、人類学上の幻想」と気づくことが大切なのだろう。そのうえで「競争と協力とのバランス」を考え、「無償と有償の境界を整理」する必要がある、と論が運ばれていく。
文化的多様性の問題に直面する欧州知識人の苦悩は、グローバル化の波にあらわれる日本人も共有できる。林昌宏訳。(作品社・2200円)
このページを閉じる
NIKKEI Copyright © 2015 Nikkei Inc. All rights reserved.
本サービスに関する知的財産権その他一切の権利は、日本経済新聞社またはその情報提供者に帰属します。また、本サービスに掲載の記事・写真等の無断複製・転載を禁じます。
- 感想投稿日 : 2015年11月23日
- 本棚登録日 : 2015年11月23日
みんなの感想をみる